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社説・コラム

社説 EUと難民問題 人道の危機に結束せよ

 欧州の結束を揺さぶる危機に違いない。内戦や政情不安の続く中東や北アフリカから難民や移民が押し寄せている。ことし既に36万人を超えた。

 2011年に始まった中東の民主化運動「アラブの春」が発端である。今春に北アフリカからの渡航が急増した。夏以降はシリア難民がトルコやギリシャ経由で西欧を目指し始めた。

 大挙しての移動や危険な密航が多く、惨事が相次ぐ。今月初め、トルコの海岸に3歳の男の子の遺体が漂着した写真に衝撃が広がった。のっぴきならない状況に陥ったといえよう。

 人道上の重大な危機だと認識せねばなるまい。難民をどこまで受け入れるか欧州の世論は真っ二つに割れる。欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長が計16万人を加盟国で分担し義務として受け入れを提案したが、結論は先送りされたままだ。23日には非公式の首脳会議が開かれる。共通した政策を打ち出し、努力してまとめてほしい。

 東欧やバルト諸国の強い反発が気掛かりだ。国境を閉鎖する、難民をバスで隣国に強制的に送るといった押し付け合いまで見られる。経済基盤が弱く、グローバル化が進んでいない国ほど警戒感が強いようだ。人口や経済規模を基準に受け入れ数を割り当て、各国が個別に対応するやり方では限界があろう。

 ドイツのメルケル首相は「難民問題で責任を果たせない欧州は私たちが望む欧州ではない」と述べた。EUは自らの存在の根底に人権を尊重し多様性を認め合う価値観があるとうたう。国境を越えた自由な移動を保障する「シェンゲン協定」も、30年前に結んでいる。

 各国が「一つの欧州」として平和の実現を目指す。まさに今その理念が問われ、ウクライナ問題、ギリシャの経済危機に続くEUの正念場といえる。

 それだけに経済力で抜きんでたドイツが積極的に受け入れを進めるのは当然だろう。ただ、あまりに大規模な流入に対して事実上の入国規制を始めた。国内で批判が高まってもいる。EUを主導する大国の責任として努力を続けてほしい。及び腰だったフランスや英国も、支援の拡大にかじを切っている。国の事情はそれぞれだろうが、結束して乗り切るべきだ。

 4年半も続くシリア内戦という原因に目を向ける必要があろう。アサド政権と反政府勢力の衝突に、米ロ対立が持ち込まれた。混乱に乗じてイスラム過激派「イスラム国」が勢力を伸ばした。この間、人口の半分が故郷を追われ、トルコなど周辺国は難民の対処に苦慮してきた。国際社会の無関心のつけが回ってきたとはいえないか。

 今日の難民問題は、国と国による戦争よりも、泥沼の紛争、テロ、独裁政権崩壊後の政治的な混乱がきっかけとなっている。不気味で先の見えない不安ゆえに人々は動く。国際的な枠組みで、文明の転換期ともいえる時代にふさわしい難民保護策を考える必要があろう。

 日本は確かに、難民を支援する国際機関に多額の財政支援を続けている。ただ、もっと踏み込んだ国際貢献の具体策はないか、検討を始める時期にきている。現政権は安全保障関連法を成立させる理由に「積極的平和主義」を掲げた。この問題に向き合わざるを得ないはずだ。

(2015年9月21日朝刊掲載)

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