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連載・特集

安保法成立 地域の波紋 <4> 基地のまち 

影響議論を 軍事ジャーナリスト・前田哲男氏に聞く 政府に問う姿勢重要

 集団的自衛権の行使を可能にし、平時から自衛隊と米軍の関係を強化する安全保障関連法。軍事ジャーナリストの前田哲男氏(76)=埼玉県ふじみ野市=は、自衛隊基地と米軍との関係が深まると指摘する。法の施行に向け、地域への影響を政府に問いただしていくべきだと訴える。(藤村潤平)

 ―安保関連法の成立をどう受け止めましたか。
 従来の枠を超えた日米間の軍事協力ができるようになったのだから、基地のある地域と市民生活に影響を及ぼさないはずがない。徐々に、さまざまなところで変化が起きてくるのは疑いようがない。

 国会審議が、憲法9条と集団的自衛権の行使に対する矛盾などに集中したのは残念だった。それ自体は重要な論点なのだが、市民生活とどう関係するかが議論で明らかにされず、政府見解が示されないまま法律ができた。一番悪い形になったと感じている。

米軍活動活発に

 ―今回の法整備で、どのような事象が起きると考えますか。
 条文は抽象的で、不透明な部分が多い。あえて例を挙げれば、米軍が緊急時に備えて各地の空港や港湾を実地調査しようとすれば、政府から管理者の自治体に協力を要請することが考えられる。自治体が留保や拒否しようとしても、安保関連法を根拠に強要することができる。

 また、米軍との平時からの協力を進める中で、海上自衛隊呉基地に米軍の部隊が常駐するようになる可能性もある。米海兵隊岩国基地は、既に海自と共同利用しているから大きな変化はないかもしれないが、活動がより活発に、大っぴらになるのは間違いない。

 ―基地を抱える地域は、安保関連法とどう向き合うべきですか。
 法が成立したから議論は終わりではなく、むしろこれから始まるものもある。法が実際に施行されるまでに、政令や施行令が作られる。この法律と地域がどう関係するかが具体的に見えてくる。地元から政府に対して、法律をどう反映したのかを積極的に問いただすべきだ。「悪法もまた法なり」と思わず、不安や疑問が生じれば、声を上げていけばいい。

従来と違う任務

 ―自衛隊への影響は。
 集団的自衛権の行使に伴う任務は、明らかに従来とは異なる。専守防衛が使命と考えてきた現職自衛官には、違和感を覚える人も少なくないのではないか。前身の保安隊が1954年に自衛隊に改組された際には、全体の約6%の約7300人が服務宣誓をせずに退職した。今回も退職が相次ぐ恐れがある。志望者も減るかもしれない。(おわり)

まえだ・てつお
 北九州市出身。長崎放送記者を経て、1971年からフリー。軍事、基地問題を中心に幅広く取材。95~06年に東京国際大教授。著書に「在日米軍基地の収支決算」「自衛隊―変容のゆくえ」など。

(2015年9月23日朝刊掲載)

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