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社説・コラム

社説 日露外相会談 「硬化」の真意 見誤るな

 岸田文雄外相がモスクワを訪れ、1年7カ月ぶりとなる日ロ外相会談を行った。外務次官級協議の10月8日再開という合意に達し、北方領土問題について対話の道筋を残したものの、その先行きは決して明るくはなさそうである。

 共同会見で垣間見えた、両国外相の認識の隔たりが何より物語っていよう。領土問題をめぐって「突っ込んだ議論をした」と岸田外相がコメントすると、ラブロフ外相はすぐさま反論。「ロシア側は北方領土について協議していない。議題は平和条約締結だ」と真っ向から打ち消してみせた。

 「領土問題は平和条約交渉そのもの」としてきた日本側の立場を知らぬはずがない。交渉の土台となるべき合意点が後戻りした印象さえ拭えない。

 領土交渉で揺さぶり、経済分野での協力を引き出そうとするロシア側の交渉術との見方もあろう。今回の外相会談を受け入れる条件として経済ミッションの同行を求めた点からも、その意図はうかがえる。日本政府自体もこれまで、経済協力を交渉のカードとしてきた。

 しかし、ウクライナ危機で欧米がロシアへの態度を硬化させ、経済制裁の包囲網を敷いている。日本が、その網を破るわけにはいかない。

 ロシアの強硬な態度には7月以降、兆しがあった。北方領土問題で挑発的な発言を繰り返し、メドベージェフ首相など閣僚の北方四島訪問も相次いだ。

 これらについて、安倍晋三首相は「極めて遺憾」と論評。当初、8月末の日程で調整していた岸田外相の訪ロを先延ばしにしたのも抗議の意味からだった。それからわずか1カ月ほどでの外相会談に、「時期尚早」との慎重論が政府内にもあったとの報道はうなずける。

 押し切ったのは、安倍首相の強い意向にほかなるまい。安保法制の強引な国会運営で失った支持率の回復に、経済と外交での成果がポイントと踏んでいるのはまず間違いない。プーチン大統領の年内来日を実現するには、今がぎりぎりの時期と判断したのだろう。

 加えて、大統領との間ではおととしの首脳会談で、領土問題については双方が受け入れ可能な解決策を作成するとの合意を得ている。個人的な信頼関係をてこに、「会えば、道は開ける」との思いがよほど強いとみえる。ところが今回、肝心の来日については結局、具体的な日程の言及がなかった。

 心すべきはむしろ、当のプーチン大統領の変化ではないか。5年前に「第2次大戦終結の日」と法で定めた9月2日、対日戦勝の記念式典にことし初めて出席に踏み切った。中国への接近ぶりも際立つ。

 原油価格の下落に伴い、国内総生産(GDP)の縮小など経済に陰りが見込まれる。国民の関心を外にそらさざるを得ない事情があるのかもしれない。

 再開にこぎ着けた次官級協議で、領土問題が進展するとみるのは早計だろう。過去2回の協議は、国際法の解釈など入り口論に終始したという。

 幸い、国際会議などの場でも首脳や外相の会談を重ねる方針は確認できた。辛抱強く、政治家間の対話を重ねるほかない。態度硬化の本心を見定め、慎重に出方を探るべきである。

(2015年9月24日朝刊掲載)

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