×

社説・コラム

社説 通常国会閉幕 野党立て直しは急務だ

 通常国会が事実上閉幕した。会期が戦後最長の95日間も延長された末に、平和国家を変質させる安全保障関連法を強引に成立させたことは政治史に刻まれるに違いない。

 安倍晋三首相はきのうの記者会見では農協法改正などを念頭に「戦後以来の大改革」と自負を見せた。いまだ反対の声が絶えない安保法についても「意義については国民的な理解は広がっていく」と述べた。民意とのずれは意に介さないようだ。

 総じていえるのは会期の長さの割に審議の中身が薄かったことだ。政府提出法案の成立率は88%にとどまった。常任委員会の開催も6月の延長後は低調で、安保法以外は二の次という姿勢がうかがえた。契約ルールなどを見直す民法改正案など安保法採決に影響が出ないよう先送りされた重要法案もある。

 数の力を背景にした「安倍1強政治」のおごりが明らかに強まっている。何より安保法の審議に現れた。民主政治で大事にすべき異論をはなから聞こうとしない。多くの憲法学者が「違憲」と指摘したが、ことごとく無視したのは見過ごせない。

 審議は200時間を超えたが議論が深まったといえまい。首相や閣僚らの答弁は迷走した。法案の肝の集団的自衛権を行使できる事例さえ定まらず、歯止めも明確に示せなかった。審議が進むほど国会前や全国各地で反対デモが増えたのは、こうした審議に不信が広がり、不安が増したからにほかなるまい。

 首相自身が国民の理解を得られていないと答弁しながら審議を打ち切り採決を強行したのはやはりおかしい。

 国会の役割を果たせたのか。首をひねりたくもある局面はほかにも多くあった。

 過去最大の規模に水膨れした本年度予算の審議もそうだ。経済成長を当てにした歳出増を厳しくチェックしたとは到底いえまい。さらに安保法の陰に隠れるように成立させた改正労働者派遣法も同じことがいえる。過去に2度も廃案になり、派遣労働者が使い捨てにされかねない内容なのに審議が生煮えのまま通してしまった。

 「多弱」の野党にも責任があるのは言うまでもない。

 政策の対立軸を示せなかったのは明らかだろう。安保法でいえば現実の脅威にこの法案が本当に妥当なのかはっきりさせることができなかったし、十分な対案を示せなかった。

 特に民主党である。党内で意見が分かれる安全保障はもとより、安倍政権の経済政策や「地方創生」のスローガンに対抗できるものをなかなか打ち出せないのが現実ではないか。

 来夏の参院選を控え、ここにきて与党の暴走を許した反省から野党再編や選挙協力を模索する動きが出ている。きのう民主党は、維新の党と政策の擦り合わせも含めて話し合う協議会の発足で合意した。安保法の廃止に向けた他党への呼び掛けを始めた共産党とも意見交換を続けるという。

 重要なのは国民から「野合」批判を受けないような政策本位の態勢を築けるかどうかだ。

 首相は再び経済優先の方針を掲げた。野党の側も安保だけでなく社会保障、人口減対策などの懸案と向き合い、参院選までに有権者の選択の受け皿をつくるよう力を注いでほしい。

(2015年9月26日朝刊掲載)

年別アーカイブ