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日中韓仏教者 深まる絆 広島で友好交流会議 対話で相互理解の先頭に

 日中韓の仏教者が広島市中区の平和記念公園に集い、「原点回帰―心の平和の構築を願って」をテーマに15日開かれた仏教友好交流会議日本大会は、諸宗教の対話を通じた相互理解の必要性などを共有した。会議は3カ国を順に巡って毎年開き、ことしで18回目。被爆70年に合わせて広島で初めて開いた。歴史認識をめぐる政治的な対立を超え、仏教者同士の絆を深める場として根付いている。(桜井邦彦)

 「仏教の果たすべき共通の役割は、すべての人々の心に平和を構築していくこと」。延暦寺前執行で、日中韓国際仏教交流協議会の武覚超理事長(67)は、各国が意見を述べる場で力説した。具体的な取り組みとして、仏教の祈りと布教、平和を目指した諸宗教対話の推進を挙げた。

 中国佛教協会の明生・副会長(55)は広島開催の意義について「戦争の怖さを身をもって知っているからこそ、ありがたい平和な世界をもっと大切にすべきだ」と強調。戦禍を繰り返さないよう、3国仏教界の団結を呼びかけ、「他国や他民族を傷つけず、自制と妥協が必要不可欠」とした。

 大会では各国の意見発表を前に、参加者約300人が平和記念公園を練り歩き、原爆慰霊碑に献花。原爆供養塔前で般若心経を唱えた。続いて広島国際会議場で、国ごとに20分ずつ、世界平和祈願法要を営んだ。

95年に第1回

 法要の祈願文で、韓国仏教宗団協議会の慈乗会長(61)は、平等を説いた自他不二の教えを挙げながら、「加害者と被害者という思考から離れ、対立や葛藤が支配的である現代の構造を、共生と和合に置き換えなければならない」と説いた。

 原爆で父、姉、妹を失った被爆者の吉田章枝さん(86)=広島市東区=は自らの体験を証言した。8月5日夜、姉19歳、妹7歳の誕生日を祝ったばかりで、崩れた家の下敷きになった妹の遺体のそばに、母手作りのおはぎが落ちていたエピソードなどを紹介。「二度と悲しい思いをする人がいないように争いのない、核のない、平和な世界の実現を」と訴えた。

 会議は、1993年に京都であった日中友好仏教協会の創立40周年行事で、中国佛教協会の会長だった趙樸初師(故人)が「3国仏教界に黄金の絆を」と、設立を提唱。第1回大会が中国・北京で95年に開かれた。日本では、京都や奈良での開催に続き、今回が6回目だった。

「恨みを断て」

 日中や日韓関係が、政治的に対立した時期も会議は欠かさず続いてきたという。武理事長は、恨みではなく、慈悲の心で接することが相互理解につながるとし、「恨みの連鎖を断ち切らないといけない。3国の仏教者が集う場は、国同士の融和を図っていくための文化的な道」と会議の意義を説明した。

 最後に採択した共同宣言でも、アジアに多様な人種、民族、文化、宗教などがあるとし、仏教徒が先頭に立った「対話」の実践を提言した。

 会議を終えた中国の明生副会長は取材に対し、核兵器について「不拡散」を主張。軍縮の大切さに言及しながらも、核兵器廃絶への積極姿勢は示さなかった。「大事なのは心の戦争を止めること。アジアの人々の心に傷をもたらすような日本の政治の行動を叱るべきだ」と述べた。

 韓国仏教宗団協議会の月道事務総長(53)は、核兵器について「人間の欲が生み出した、あってはならない兵器」と、廃絶の必要性を指摘。「日中韓は東アジアでの運命共同体。慈悲によって黄金の絆を築き、共存していきたい」と話していた。

(2015年9月28日朝刊掲載)

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