社説 国連安保理改革 日本こそ試されている
15年10月1日
創設70周年の節目というのに、国連はお祝いムードから程遠い。総会の一般討論演説では、むしろその非力をただす声のボルテージが上がっている。それほど厄介な火種を、世界は抱え込んでいる。
欧州に押し寄せる難民の姿が何よりの証しだろう。シリア難民だけでも400万人を超える。ところが、その原因であるシリア内戦について、国際社会はいまだ解決の糸口さえ見いだせてはいない。
国際社会における調整の場であるべき安全保障理事会は、十分に働いているのだろうか。
協調を旨とする安保理は、常任理事国による拒否権の行使で機能不全に陥った冷戦時へと、逆戻りしかけている。
常任理事国自らが、紛争や領土問題に深く関わっているからにほかならない。シリアはもとよりイラクやウクライナ、南シナ海などのどれにも、紛争国の後ろ盾や利害の当事者となっているのである。
かねて改革を求められながら、安保理は10年前にやっと、2年交代制の非常任理事国の数を6から10へと増やすにとどまっている。核保有国でもある大国が角突き合わせ、1票の拒否権で合意を阻む構造は何も変わっていない。安保理改革は待ったなしの重要課題といえる。
安倍晋三首相はきのうの演説で、常任理事国入りの意思をあらためて表明した。併せてアフリカや中東への安定化支援策を打ち出したのは、支持拡大を狙っての布石だとする見方はその通りだろう。
国連創設時には一握りの加盟国数にすぎなかったアフリカ勢、アジア勢ともに54カ国へと膨れ上がった。同じ敗戦国であるドイツに加え、インドやブラジルと並んで理事国入りを目指すのは、国連創設時とはもはや別物の国際情勢を反映させるべきだとの主張が支えている。
ただ、常任理事国入りを目指すといっても、それは本来、「アジアの一員」としてでなければなるまい。国連改革に必要な決議の採択には、戦略的互恵関係さえ難しくなりつつある中国を含め、常任理事国すべての承諾が欠かせない。ハードルはあまりにも高い。
ここにきて、国連中心主義による紛争解決を首相がうたっても、その主張が説得力を持つとは限らないことを忘れてはならない。きのう公布された、新しい安保法制のことである。演説では「国連平和維持活動(PKO)に幅広く貢献できるよう法整備を整えた」と説明したものの、米国との同盟関係に偏り、いっそう抜き差しならないものになる懸念は国民の間でも拭い切れていない。
その点、演説後の会見で触れた難民問題では国民の多くも合点がいっただろう。「難民を生み出す土壌を変えていく」として、経済支援や教育、保健医療での積極的な協力を掲げた。異論はあろうはずがない。
平和主義を掲げて戦後70年。一度として銃火を交えずにきた日本の歩みには、国際的な評価も高い。そうした資産を生かし、また「核クラブ」に属していない被爆国として、安保理の改革にどんな役割を担えるか。拒否権にたがをはめるなど、紛争解決への道筋を指し示せるのか。来年、非常任理事国となる予定の日本が試されている。
(2015年10月1日朝刊掲載)
欧州に押し寄せる難民の姿が何よりの証しだろう。シリア難民だけでも400万人を超える。ところが、その原因であるシリア内戦について、国際社会はいまだ解決の糸口さえ見いだせてはいない。
国際社会における調整の場であるべき安全保障理事会は、十分に働いているのだろうか。
協調を旨とする安保理は、常任理事国による拒否権の行使で機能不全に陥った冷戦時へと、逆戻りしかけている。
常任理事国自らが、紛争や領土問題に深く関わっているからにほかならない。シリアはもとよりイラクやウクライナ、南シナ海などのどれにも、紛争国の後ろ盾や利害の当事者となっているのである。
かねて改革を求められながら、安保理は10年前にやっと、2年交代制の非常任理事国の数を6から10へと増やすにとどまっている。核保有国でもある大国が角突き合わせ、1票の拒否権で合意を阻む構造は何も変わっていない。安保理改革は待ったなしの重要課題といえる。
安倍晋三首相はきのうの演説で、常任理事国入りの意思をあらためて表明した。併せてアフリカや中東への安定化支援策を打ち出したのは、支持拡大を狙っての布石だとする見方はその通りだろう。
国連創設時には一握りの加盟国数にすぎなかったアフリカ勢、アジア勢ともに54カ国へと膨れ上がった。同じ敗戦国であるドイツに加え、インドやブラジルと並んで理事国入りを目指すのは、国連創設時とはもはや別物の国際情勢を反映させるべきだとの主張が支えている。
ただ、常任理事国入りを目指すといっても、それは本来、「アジアの一員」としてでなければなるまい。国連改革に必要な決議の採択には、戦略的互恵関係さえ難しくなりつつある中国を含め、常任理事国すべての承諾が欠かせない。ハードルはあまりにも高い。
ここにきて、国連中心主義による紛争解決を首相がうたっても、その主張が説得力を持つとは限らないことを忘れてはならない。きのう公布された、新しい安保法制のことである。演説では「国連平和維持活動(PKO)に幅広く貢献できるよう法整備を整えた」と説明したものの、米国との同盟関係に偏り、いっそう抜き差しならないものになる懸念は国民の間でも拭い切れていない。
その点、演説後の会見で触れた難民問題では国民の多くも合点がいっただろう。「難民を生み出す土壌を変えていく」として、経済支援や教育、保健医療での積極的な協力を掲げた。異論はあろうはずがない。
平和主義を掲げて戦後70年。一度として銃火を交えずにきた日本の歩みには、国際的な評価も高い。そうした資産を生かし、また「核クラブ」に属していない被爆国として、安保理の改革にどんな役割を担えるか。拒否権にたがをはめるなど、紛争解決への道筋を指し示せるのか。来年、非常任理事国となる予定の日本が試されている。
(2015年10月1日朝刊掲載)