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社説・コラム

社説 防衛装備庁発足 武器輸出の旗振り役か

 防衛装備庁がおととい防衛省の外局として発足した。

 陸海空それぞれの自衛隊が個別に担ってきた武器の開発、購入、輸出を一元的に管理する。中谷元・防衛相は「装備品を効率的に取得する」とコスト削減の意義をまず強調した。

 しかし最も注視すべきは、民間企業による武器輸出や他国との共同開発の窓口になる点だ。企業へ助言し、日本政府としての判断を基に各国と交渉する。

 武器輸出の拡大に向けた旗振り役となってはなるまい。国会や国民による厳しい監視が欠かせない。

 装備庁発足の背景には、武器輸出を成長戦略に位置付ける安倍政権の姿勢があろう。昨年4月に「武器輸出三原則」に代わる「防衛装備移転三原則」を閣議決定し、輸出の拡大へとかじを切った。安全保障関連法と同様、戦後日本が築いてきた平和国家の理念を揺るがしかねない大転換である。

 新ルールは相手国による再輸出や目的外使用を条件付きで認める。政府はあり得ないと説明するが、武器は情勢が混乱すればどう流出するか分からないのは過去の事例からも明らかだ。将来的に日本製の武器が紛争地で使われる危険性が拭えないし、輸出してしまえば海外で監視し続けるのは相当難しい。

 実務を担う装備庁が、そうしたことへの歯止めをかけられるとは思えない。重要案件は首相や関係閣僚が国家安全保障会議(NSC)で審査するが、非公開で公表内容も限られる。つまるところ政権の政治的な思惑に左右されることになろう。

 ビジネス優先の経済界の論理ではなく平和主義を国是とする姿勢を貫けるかも疑わしい。経団連は先月、武器輸出を「国家戦略として推進すべきだ」と提言した。安保法をてこに弱体化しつつある防衛産業をもり立てたい意図があるのだろうが、持ちつ持たれつの関係でなし崩し的に拡大する恐れはないか。

 現に武器の共同開発・生産は既に広がっている。イージス艦で使うディスプレーのソフトウエアを米国に輸出することも決まっている。防衛省と大学との連携も進み、軍事技術として応用できる基礎研究の公募に、少なくとも16大学が手を挙げた。これも装備庁が窓口である。

 このまま産官学の一体化が進むとすれば危うい。最近は民間の製品が軍事に転用されるプロセスが見えにくくなっている側面もある。しかし、こうした問題に対する国民のコンセンサスがどこまであるだろう。

 安保法の陰に隠れた感もあるが、装備庁発足の持つ重い意味を忘れてはならない。そもそも防衛予算の4割に当たる約2兆円の予算を握り、巨大な職務権限を持つといっていい。

 だからこそ旧防衛施設庁の不祥事を思い出したい。汚職や官製談合が相次ぎ、2007年に廃止に追い込まれた。装備品は高額な上、専門性が高い。官民の癒着が起こりやすい体質はどこまで改善されたか。「不祥事の温床になる」との声が政府与党からも漏れるほどだ。

 庁内に「監察監査・評価官」を約20人置き、防衛監察本部との二重チェックにしたという。だが、しょせんは身内同士で適切にチェックされるとは思えない。より一層、防衛予算の国会審議が重要になってくる。

(2015年10月3日朝刊掲載)

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