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社説・コラム

天風録 「首相のレゲエダンス」

 お尻を振って、腰をくねらせる。中米ジャマイカではレゲエに合わせ、踊るのが歓迎の習わしらしい。先ごろ訪れた安倍晋三首相も、誘いに乗ってダンスした。ぎこちなくても笑顔を忘れず、波長を合わせる腰つきは「努力賞」ものだった▲だが、その前に滞在した米国での発言は、周りとの波長が合っていたかどうか。シリア難民の問題を聞かれ、「受け入れるよりも前に、やるべきことがある。女性、高齢者の活躍だ」と▲着の身着のまま戦火を逃れてきた人々に、どう手を差し伸べるか。世界では議論が進む。それを、まるでそっぽを向くかのような内向きの口ぶり。人道の視点は一体どこへ―。支援額を弾んでも、これでは万国の民の胸に響くまい▲週明けにはノーベル平和賞の発表が迫る。難民支援で欧州の陣頭に立つドイツのメルケル首相が、最有力の候補に躍り出たとも聞く。国連安保理の改革では肩を並べる日独の両トップだが、この落差はさてどうだろう▲レゲエの神様ボブ・マーリーの名曲「ワン・ラブ」に、こんな歌詞が見える。「一つの愛、一つの心で集まろう」。難民を思う心の波長は世界の隅々に広がる。日本も、リズムよく乗れないものか。

(2015年10月4日朝刊掲載)

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