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社説・コラム

『書評』 話題の1冊 民主主義ってなんだ? 高橋源一郎、SEALDs著

デモ 背景に「個の思想」

 戦後日本の大きな転換点となる安保関連法案が国会で審議された今夏、国会前で大規模デモが幾度となく展開された。「民主主義って何だ?」「これだ!」。群衆の真ん中でメッセージを放ち続けた学生たちと、中心メンバーを明治学院大で教える尾道市出身の作家とのタイムリーな対論集だ。

 対談に参加した若者たちのグループ「SEALDs(シールズ)(自由と民主主義のための学生緊急行動)」の結成は、ことし5月3日の憲法記念日。立憲主義を「そんな言葉は聞いたことがありません」とツイッターで言い切る国会議員が中枢を占める政府に、若者たちは「勝手に決めるな」「言うこと聞かせる番だ、俺たちが」と言葉のつぶてを浴びせ掛ける。行動の背景にある「個の思想」を、過去の安保闘争を知る世代である作家の平易な語りが引き出す。

 直接民主制の古代ギリシャに始まる民主主義の歴史を、今まさに若者が抱える時代認識と重ねてひもとく。「なんかヤバい」「このままじゃダメだよね」…。素朴な問題意識が、東日本大震災後の原発事故や特定秘密保護法の国会審議を経て膨らんでいく様子は、まるで現在進行形の社会思想史だ。

 2日間、計8時間にわたる対談で互いの民主主義観を語り合った「師」と「教え子」。その双方が言葉を大切にしている。師が「個人の中から言葉が出てきている。それがスピーチの特徴になってるよね」と評する若者たち。学び、アルバイトをして、友人と遊んで…。日常から生まれた言葉は、為政者の言葉の空疎さも相まって、多くの人を引きつける。

 本書が店頭に並んだのは、安保関連法が可決、成立する前日の9月18日。安保論議を機に全国各地の幅広い世代に広がった「路上の民主主義」の原点と、爆発的な拡散力を知ることができる。(石川昌義)(河出書房新社・1296円)

(2015年10月4日朝刊掲載)

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