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社説・コラム

天風録 「命の腕輪」

 「命の腕輪」が国境なき医師団の基本ツールだそうだ。幼い子の腕に回し、その太さから健康状態を瞬時に読み取る。目盛りが赤なら命が危ない重度の栄養失調、オレンジなら中程度…。長い経験に裏打ちされた道具だろう▲独立・中立・公平を貫く3万人以上のスタッフが世界の紛争や災害、貧困と向き合い、年間900万人に支援を届ける。身を守る武器を持たないのは敵味方なく対話し、信頼を勝ち取るのが安全の早道と考えるからだ▲アフガニスタン北部に開いた病院も原則を貫いたはずだった。タリバンの攻勢で戦火が広がり、あちこちに根回しして何人も隔たりなく治療した。そこに米軍の空爆である。子どもの犠牲者もいるというから痛ましい▲大統領がノーベル平和賞をもらった国が、かつての受賞団体の施設を爆撃する。悪い冗談としか思えない。アフガン作戦ではこれまで民間人を巻き添えにしても平気な顔の米軍だが、「誤爆」で逃げ切れるわけもない▲手弁当同然にはせ参じる医師団メンバーの胸中を思う。自らの危険も刻々読み取らなければ活動できない。そんな状況に陥れば多くの子どもの命が失われよう。事の重みをオバマさんはお分かりか。

(2015年10月5日朝刊掲載)

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