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社説・コラム

社説 改造内閣始動 「三本の矢」 まず検証を

 安倍改造内閣が動きだした。安全保障法制と環太平洋連携協定(TPP)交渉という二つの重要課題に一区切りついたとみたのだろう。来年夏の参院選をにらんで経済重視を強調し、当面は内閣支持率に響かない「安全運転」に徹するようだ。

 目新しさには欠ける。「目玉」の1億総活躍相に配したのも安倍晋三首相側近の加藤勝信氏である。「政治とカネ」の問題に神経をとがらせ、入閣待機組に配慮した節もある。首相の言う「未来へ挑戦する内閣」にふさわしい布陣かどうかは直ちに試されることになろう。

 それにしても「1億総活躍社会」とは曖昧なスローガンだ。

 首相はアベノミクスが第2のステージに移るとし、国内総生産(GDP)を600兆円に伸ばす強い経済、希望出生率1・8、介護離職ゼロ―の三つを「新三本の矢」と名付けた。従来の三本の矢の金融政策、財政政策、成長戦略は「強い経済」に含めるという。

 だが三本の矢は的を射ていたのだろうか。改造内閣始動に当たってまずやるべきは、第1のステージの検証であるはずだ。

 なるほど日銀による「異次元の金融緩和」は企業収益や賃金水準などに一定の好影響を与えたに違いない。しかし9月の日銀短観によると、景気回復の歩みはいささか足踏みしている。成長戦略はいまだ成果が見えない。中国経済の減速が及ぼすリスクもあろう。アベノミクスの第2ステージは、いきなり正念場に立たされている。

 7、8日の共同通信世論調査では「新三本の矢」で景気が良くなると思うと回答した人は26・5%にとどまる。国民の率直な不安を物語っていよう。

 出生率の向上や介護離職を防ぐ手だてについても「設計図」はこれから描くという。地方創生や高齢者対策などの既存の政策の重複も想定される。事務方の態勢にしても省庁横断を貫けるか。このままでは文字通りスローガン倒れになりかねない。

 安倍政権は「アベノミクス解散」を打ち出して昨年の衆院選で圧勝したが、その勢いをかって安全保障関連法の成立へ突き進んだ。いまだ国民の広範な理解が得られたとは言い難い。今度は経済重視です、と言われても信頼に値するのだろうか。

 安保法制もTPPも、焦点は今後の政権の対応である。

 安保関連法は来年3月までに施行される。政府は国連平和維持活動(PKO)での「駆け付け警護」など自衛隊の新たな任務の検討を始めている。事は現場の自衛官の安全に関わる。国会などの場でより丁寧に説明しなければならない。

 TPPにしても批准や国内対策を急ぐ前に、国民への説明責任を果たすことが重要になる。国民生活や国内農業に与える影響は不透明であり、徹底した秘密主義の交渉だった。しかもコメなど重要5品目を関税撤廃の例外扱いとする国会決議に抵触しているとの批判もある。

 安倍政権はTPPの国会承認手続きを来年1月召集の通常国会以降にしたいようだ。野党が求める秋の臨時国会の開催見送り論もある。だが首相の外遊などを理由に、論戦を逃げてはならない。少なくとも閉会中審査でしっかり説明するとともに、早期の国会召集に応じるべきではないか。

(2015年10月9日朝刊掲載)

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