×

社説・コラム

社説 伊方原発の再稼働 地元同意 まだ早過ぎる

 四国電力の伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の再稼働に向けた地元同意の手続きが、大詰めを迎えている。

 愛媛県議会はきのうの本会議で再稼働に賛成する請願を採択した上で、自民党県議から出された再稼働の必要性を強調する決議を賛成多数で可決した。

 地元の伊方町議会でも賛成の陳情を採択済みだ。中村時広知事と山下和彦町長がゴーサインを出せば、同意手続きが終わることになる。

 だがちょっと待ってほしい。各種の世論調査を見ても国民の原発反対の声は依然として根強い。8月に再稼働した九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)に続き、またしても異論を封じる形で原発回帰の道をひた走っていいのだろうか。

 知事と町長は同意を急がず、残された課題を慎重に見つめ直してもらいたい。

 特に伊方原発特有の問題を軽視することは許されない。極めて特殊な立地にあることだ。瀬戸内海の西へ突き出た佐田岬半島の付け根にあり、その細長い岬は40キロにも達する。

 県の避難計画によると、事故が起きた場合、岬に住む5千人は原発の近くを通り抜け、東の松山市方面などへ逃げることを想定する。これはどう考えても現実的ではあるまい。船やヘリコプターで西側の大分県へ逃げる案もあるが、津波や悪天候では難しい。つまり住民の逃げ場を十分に担保しない空論に近い計画と言わざるを得ない。

 避難計画を新規制基準の審査対象としない原子力規制委員会の在り方も疑問だが、だからといって地元の手続きにおいて、議論を素通りしていいはずはない。県はまず避難計画の不備を認め、住民の安全を守るのは自治体の責務であることを認識してもらいたい。

 「地元」のとらえ方にも疑問符が付く。四国電力は川内原発と同様、立地自治体である伊方町と愛媛県だけの同意で事足れり、との姿勢である。しかし重大な事故が起きれば放射性物質は広範囲にまき散らされることは福島の事故が示している。

 少なくとも緊急防護措置区域である30キロ圏内の周辺の自治体からも同意を得るべきだ。

 加えて瀬戸内海を挟む対岸の住民の声をおろそかにしてはならない。今回、広島と山口両県の住民から放射性物質よる海洋汚染の恐れなどを理由に再稼働しないよう求める請願が県議会に出されていたが、きのう否決された。その懸念に応える議論をしたのだろうか。

 もう一つ見過ごせないのは愛媛県が「国の責任」をよりどころに再稼働の判断をする姿勢を示すことだ。知事の要望を踏まえ、安倍晋三首相は先日、伊方原発の事故対応について「国民の生命・身体や財産を守るのは政治の重大な責務」と述べ、知事も評価している。

 だがこれで安全が担保されたわけでもない。県の責任を国に転嫁しているのではないか。

 11月には国の総合防災訓練が伊方原発と周辺で開かれる。地元自治体が避難計画の実効性を検証し、課題と対策を洗い出すことが先であり、最低でも再稼働の判断はそれからでいい。

 原発事故は起こり得る―。この前提に立ち続けることが福島の事故の教訓であった。この点を忘れてはならない。

(2015年10月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ