基地のまちは今 岩国爆音訴訟判決を前に <下> 艦載機移転
15年10月13日
新たな騒音を市民危惧 厚木から「たらい回し」
「ゴーッ」とうなるようなごう音がとどろく。米海兵隊と海上自衛隊が共同使用する岩国基地(岩国市)から米軍機FA18ホーネットが次々と離陸。上空で旋回し、海の方へと消えた。どういったルートをたどり、どんな訓練をするのか、市民は知る由もない。
「騒音解決のために基地を広げたのに、新たな騒音を持ってくるのは納得できない」。岩国爆音訴訟の津田利明原告団長(69)=岩国市桂町=は機影を見上げ、唇をかんだ。
2009年の提訴から6年の間に、基地を取り巻く状況は一変した。
騒音軽減を目的に、国は滑走路沖合移設事業で海面を埋め立て、滑走路を約1キロ沖合に出した。だが、その基地には在日米軍再編で17年ごろまでに米海軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機59機の移転が計画され、受け入れ工事が着々と進む。原告たちは沖合移設が基地機能強化の呼び水になったとみる。艦載機こそ、津田団長が危惧する「新たな騒音」なのだ。
移転元の厚木基地をめぐって、周辺住民は岩国と同様の騒音訴訟を繰り返し起こしてきた。東京高裁は7月30日、第4次厚木基地騒音訴訟の控訴審判決で、自衛隊機の夜間早朝の飛行差し止めに加え、初めて将来分の賠償も命じた。
米軍機に関する訴えについて請求を退けたが、判決は「厚木の航空機のうち艦載機の飛来により生じる騒音が相対的に大きな比重を占めている」と指摘。差し止めと将来分の賠償の期間を、岩国への移転を踏まえ16年12月末までとした。つまり国家賠償が認められた騒音が、岩国へ「たらい回し」されるということだ。
国は艦載機の移転に伴う騒音予測を07年1月に1度、まとめたきりだ。住宅防音工事の対象となるうるささ指数(W値)75以上の区域が移設前の1600ヘクタールから、移設後には艦載機が来ても500ヘクタールに減少するとした。
だが、配備される戦闘機の種類や飛行経路などが予測と異なる可能性は否めない。岩国市は艦載機の試験飛行を国に重ねて要請。防衛省は「早期にできるよう努力したい」と回答するが見通しは立っていない。
岩国爆音訴訟の口頭弁論で艦載機の訓練状況などを証言した第4次厚木基地騒音訴訟の金子豊貴男副団長(65)=相模原市=は「『ねぐら』が移動するだけで、関東周辺の訓練空域へ行くのに厚木の離着陸は続く。移転で爆音は岩国に拡大し、両基地とも騒音被害は増える」と指摘。国の予測の信用性を疑問視する。
かつて岩国基地では激しい騒音を振りまく艦載機の陸上着艦訓練(FCLP)が繰り返された。00年9月を最後に実施されていないが、津田団長は「市民が恐怖と不快感を身をもって体験していたからこそ、移転は許さないという提訴への賛同が広がった」と話す。
判例で基地騒音の賠償を認める流れは定着している。その上で、滑走路が沖合移設され、艦載機移転を控えた岩国特有の事情を司法はどう判断するのか。判決は、地域の将来と市民生活の根幹を見つめ直す契機になるはずだ。(野田華奈子)
岩国基地への米空母艦載機移転計画
在日米軍再編で、米海軍厚木基地(神奈川県)の艦載機59機が2017年ごろまでに米海兵隊岩国基地へ移転する計画。日米が06年に合意した。岩国基地の駐留機は計120機以上とほぼ倍増し、極東最大級になる見通しだ。移転準備のため、岩国市中心部の愛宕山地区では米軍家族住宅などの整備が始まっている。
(2015年10月10日朝刊掲載)