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社説・コラム

天風録 「200年ぶりの行列」

 室屋忠右衛門なる人が中国山地の村から見物に来たという。「万事念入り美を尽せり、筆紙にも尽しがたし」と書き残したのは広島のみこし行列「通り御祭礼」。200年ぶりにきのう催された。さて市民は日記にどう書く▲天下人家康の五十回忌に合わせ始まる。広島東照宮を出たみこしが50年に1回、城下を巡った。当初は厳粛な祭礼も回を重ねるうちに、だんだん庶民も主役の行事になった。通算5度目となる今回も、大勢が満喫した▲チョーサー、チョーサーと声が響き、「二百貫みこし」が担がれていく。いかめしいお奉行や藩士、楽人ら550人が練り歩いた。装束に身を包んだのは地元の人々でコスプレパレードの趣も。楽しい歴史絵巻である▲京都には祇園祭、東京なら神田祭…。伝統のみこし行列が各地で引き継がれている。広島も負けていまい。御祭礼には花田植えの一団も続き、にぎやかで地域色の豊かなお練りとなった。子ども神楽も沿道で舞われた▲天下太平を願った祭り。維新の動乱や戦争などで長らく開けなかった。だが大みこしは原爆の猛火をくぐり抜け、被爆70年の節目に行列が復活した。平和な世をいつまでも保ち、必ずや次回も。

(2015年10月11日朝刊掲載)

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