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社説・コラム

天風録 「茶色の朝」

 友達が愛犬を始末したと言う。毛が茶色以外のペットを許さぬ新法のお達しだから、と。全体主義の寓話(ぐうわ)として、かつてフランスでよく売れた小説「茶色の朝」(大月書店)は出だしから穏やかでない▲悪法と騒いだ新聞や出版は、しばらくして発禁になる。くわばら、くわばらと眺めるうち、今度は昔飼っていた犬や猫の色まで調べられ、「国家反逆罪」の烙印(らくいん)を押され…。声高でない筆遣いに、かえって真綿で首を締められていく気分に包まれる▲そんな息苦しさの兆しだろうか。政治的中立性を盾に、行事の後援申請を断る市が中国地方で目立つという。原発を考える講演会で掛け合った主婦の声が本紙に載っていた。「諦めた」が気に掛かる▲中立性がどうのと言う行政の方が、実は政治に過敏かもしれない。苦手なピーマンをより分けるのと同じで、世の雲行きが気になるからこそ避けて通ろうとするのだろう。住民の沈黙はむしろ茶色の朝を招きかねない▲茶色は、初期のナチスが制服に使っていた色との連想もフランス人には働くらしい。人口減対策で若者定住にいざなう市は珍しくない。風通しのよくない「茶色の街」と、彼らの目に映らねばいいのだが。

(2015年10月12日朝刊掲載)

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