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連載・特集

民の70年 第3部 民主主義の現在地 <2> 監視される学園

学外の「介入」 現場苦悩 政治的テーマ 敬遠も

 実際の選挙の投票箱を使う模擬投票。「18歳選挙権」が導入される来夏の参院選をにらみ、松江市立女子高が2日に実施した。政治への関心を育む主権者教育の一環だが、学校が設定した投票テーマは「県外の人に勧める市内の観光スポット」。市教委と協議し、政治的な課題はあえて避けた。

「扱いしんどい」

 「山口県のこともありましたし…」。岩町暁教頭の念頭には、山口県議会で7月、安全保障関連法案をテーマにした柳井高(柳井市)の模擬投票が問題視されたことがあった。「例えば、松江市内にある原発も市民の関心が高い重要なテーマ。でも、外部からのクレームも想定され、扱うのはしんどい」と明かす。

 柳井高では、安保法制に関する複数紙の新聞記事を2年生が読み比べ、与野党の見解を学んだ上で模擬投票をした。これを知った自民党県議が県議会一般質問で「政治的な中立性が問われる教育現場にふさわしいか疑問」と指摘。浅原司教育長は「(安保法制への)賛否を問う形になり、配慮が不足していた」と陳謝した。

 別の自民党県議も「偏った思想の教員が生徒をマインドコントロールする恐れもある。デリケートな問題は学校になじまない」とくぎを刺す。

 「18歳選挙権」を控えて文部科学省と総務省が9月末に公表した副教材は、主権者教育の授業例として模擬選挙のほか、生徒同士の政策討論、政党別の政策比較などを挙げた。だが、教育現場ではさまざまな心理が働く。

 山口県高教組の高見英夫委員長は「昔と違い、今は校長も評価次第で給料が変わる時代。現場への介入に教育長が屈すれば、現場は萎縮し、政治的なテーマに尻込みをしてしまうのでは」と話す。

苦情電話が殺到

 意見が割れる問題を教育現場で扱うことへの厳しい視線は、自治や自律をより重んじる大学にも向けられる。広島大大学院の崔真碩(チェ・ジンソク)准教授(朝鮮文学)は昨春、従軍慰安婦問題を扱った映画を講義で上映した。すると研究室や大学事務室に苦情の電話やメールが数百件、殺到した。

 映画や講義の内容を疑問視した受講生の投書を全国紙が掲載したことが発端だった。「授業を妨害する」と同大に電話があり、職員が教室の外で警備する事態にも発展した。ネットでは「国立大で反日教育」「首にしろ」という書き込みもあった。

 「不満なら教員と直接議論すれば済む話。それを学外に持ち出し、学問の自由が脅かされたところに深刻さがある。そこまで人と人の関係は希薄になったのだろうか」。崔准教授の憂いは深い。(馬場洋太)

(2015年10月12日朝刊掲載)

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