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社説・コラム

天風録 「剣をとる者は剣にて亡ぶ」

 ヤンキー・ゴーホームと市民の一部が叫んだ。若い米国人女性がパニックになり車を急発進させた。その光景に心が痛んだ―。辺野古に通う沖縄タイムスの記者がコラムで明かす。矛先は個人じゃない。叫ぶならゲット・アウト・マリーン(海兵隊)だろう、と▲きのう翁長雄志(おなが・たけし)知事が基地移設に伴う埋め立て承認を取り消した。国も真っ向から対抗するに違いない。高じて個人と個人が憎み合うような事態になれば、事の本質はかすんでしまう。現場の記者はそう危惧したのだ▲沖縄の離島、伊江島に「ヌチドゥタカラの家」を訪ねたことを思い出す。「銃剣とブルドーザー」に抗した農民リーダー、阿波根昌鴻(あはごんしょうこう)翁の記念館だ。武装米兵による過酷な土地接収との闘いの、さながら縮図のようだった▲島びとには米兵と対峙(たいじ)する際の決め事があった。今も館内の垂れ幕に大書されている。その一つが「手に何も持たないで、座って話すこと」。相手だって人間さあ。恐らく翁が唱えた非暴力行動の神髄だったのだろう▲記念館の壁には、「すべて剣をとる者は剣にて亡(ほろ)ぶ」と聖書の言葉がある。剣とは基地や核兵器をも意味するようだ。やはり、「矛先」はそこである。

(2015年10月14日朝刊掲載)

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