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社説・コラム

社説 辺野古承認取り消し 問われる「基地と自治」

 政府との全面対決に踏み出したといえよう。翁長雄志(おなが・たけし)沖縄県知事が、米軍普天間飛行場の移設に向けた名護市辺野古沿岸の埋め立て承認を取り消した。

 沖縄防衛局は行政不服審査法に基づき、取り消し処分の効力停止を国土交通相に速やかに申し立てる構えだ。認められれば移設関連の作業をすぐ再開するという。それに対し、県側は取り消しを求めて提訴する手はずである。

 対立が続くとすれば、法廷闘争は避けられそうにない。こうした異常事態に至ったことは残念でならない。

 行政手続きだけを考えると、前知事の承認を取り消す判断を継続性に照らして疑問視する声もあろう。しかし翁長知事の言い分は一定に理解できる。

 今後の焦点となるのは、取り消しの理由とした「瑕疵(かし)」の中身であろう。知事は辺野古での環境保全措置が十分ではないことを挙げた。さらに政府側が県内移設の理由とする安全保障上の地理的な優位性についても、その根拠が示されていないことを批判した。

 知事の説明は結論ありきの政府が、地元と正面から議論してこなかった問題点と重なる。なぜ辺野古移設が「唯一」の解決策なのか。沖縄側の最大の疑問に答えられていないことが問題の根底にある。普天間の危険除去が移設の目的だと言いながら「5年以内の運用停止」への努力も見えない。

 国の方は聞く耳を持たない。きのうも菅義偉官房長官は「前知事から行政の判断は示されており、法的瑕疵はない」とにべもなかった。県が設定した意見聴取の場に沖縄防衛局が姿を見せなかったのも大人げない。

 強気の国に対し、翁長知事も厳しい闘いになるとみている。裁判が長引き、その間に本体工事が進めば、移設が既成事実になりかねない。それでも取り消しに踏み切ったのは、ここで諦めれば基地問題全体の解決が遠のくと考えるからだろう。

 記者会見で知事が「地方自治や民主主義の在り方を議論する機会にしたい」と述べた意味は重い。沖縄だけではない。日米安保条約の下で政府と基地を抱える自治体の多くは時に対立関係にあった。航空機の騒音や事故の危険性、米兵犯罪などが住民の安全を脅かすからだ。しかし歴代政権は安全保障を「専権事項」として自治体の声より米軍を重んじてきた。少なくとも今は国と地方が対等の関係であるにもかかわらず。

 基地をめぐる埋め立ての認可権限は、その中でも自治の現場が異議を申し立てることができる数少ないカードだ。今回、翁長知事はそれを最大限使って国に物申したことになる。県民の財産権や人権、暮らしを犠牲にしてまで安全保障を成り立たせる論理はおかしい、日本全体で考える問題ではないか、と。

 だからこそ国に慎重な対応を求めたい。そもそも県の処分の効力停止の申し立てにしても、行政の処分に不満がある国民の救済を目的とした制度だ。国の申し立てを国が判断することには違和感が拭えない。せめて国交相は知事の主張を十分に聞き取り、徹底して審査すべきだ。

 国の側も司法判断に委ねる覚悟なら、少なくとも決着を待たねばなるまい。本体工事を強引に目指すのは論外である。

(2015年10月14日朝刊掲載)

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