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連載・特集

民の70年 第3部 民主主義の現在地 <3> 排外主義

ゆがんだ「敵意」拡散 土砂災害で流言飛語

 在日韓国人と中国人がボランティアを装い、空き巣狙いをしています―。昨年8月の広島土砂災害の直後、ツイッターで拡散した「うわさ」だ。広島朝鮮初中高級学校(広島市東区)の金英雄(キム・ヨンウン)校長は、同僚から「ネットで出回っている」と聞いた。ことし9月の関東・東北豪雨でも、被災地での空き巣を外国人犯罪と決めつける風評がネットにあふれた。金校長は「またか」「なぜ」とため息をつく。

 広島県警によると、災害発生から2カ月間で5件の空き巣被害が被災地で発生。容疑者は捕まっていない。「大勢が困っている時に敵意を外国人に向ける。典型的なヘイトスピーチ(憎悪表現)だ」と金校長。当時、いやがらせを警戒して生徒と保護者に注意を呼び掛けた。

デモはないが…

 広島市南区の介護施設職員蒋都鉉(チャン・トヒョン)さん(21)は被災地で土砂運搬のボランティアをした。「うわさを流す人は、在日を話し合えない怪獣のような存在とでも思っているのでは。仲よくなれる可能性を奪われたようで悔しかった」と話す。

 「ぶち殺せ」「たたき出せ」…。在日コリアンへの敵意をあおる集団が東京や大阪の繁華街をデモ行進する。あからさまな行動は目立たない広島でも、敵意はネットを通じて浸透する。

 在日本大韓民国民団(民団)広島県地方本部の沈勝義(シム・スンウィ)団長(三次市)は昨年度から、ヘイトスピーチの根絶対策を取るよう政府に求める意見書の提出を地方議会に働き掛ける。広島県と広島、三次市の各議会が呼応した。沈団長は「表現の自由と差別やうそをはき違える言動が市民権を得ようとしている。隣人に憎しみを向ける群集心理の恐ろしさを、関東大震災で学んだはずなのに」と憤る。

 関東大震災時の朝鮮人虐殺の実態を探った著書があるルポライター加藤直樹さん(48)=東京都=は「やつらは何をするか分からないという恐怖が、殺しても構わないという差別感情と結び付いた」と分析。日韓併合からまだ13年後で、増加する朝鮮人労働者が治安を乱すという論調は日常的だったと指摘する。

背景に社会不安

 「相手を見下し、自分が優位にあると信じる人種差別は、社会不安とともに広がりやすい」と加藤さん。関東大震災の91年後に起きた広島土砂災害の際にも、ネット上で排外的なうわさを見つけた。「差別感情は戦後、右肩上がりの時代には目立たなかった。最近の排外主義は、長引く不況やアジアの経済成長による自信の揺らぎ、『外国人に富を奪われている』という感覚から生まれている」と分析し、こう問い掛ける。「虐殺を過去の出来事と軽視できるだろうか」(石川昌義)

(2015年10月14日朝刊掲載)

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