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騒音と基地強化 どう判断 岩国爆音訴訟 地裁支部あす判決

 米海兵隊と海上自衛隊が共同で使用する岩国基地(岩国市)の騒音被害をめぐり、周辺住民654人が国に夜間・早朝の飛行や米空母艦載機移転の差し止め、損害賠償などを求めた岩国爆音訴訟の判決が15日、山口地裁岩国支部で言い渡される。国が騒音対策として実施した滑走路の沖合移設と、在日米軍再編に伴う空母艦載機の移転計画の影響が焦点。岩国の基地騒音に対する初の司法判断となる。(野田華奈子)

騒音被害と賠償

 原告は、国が補助する住宅防音工事の対象となる「うるささ指数(W値)」75以上の指定区域に住む。軍用機の騒音で睡眠妨害や会話を遮られるなどの生活被害を受けており、我慢できる限度(受忍限度)を超えて違法と訴える。

 国は受忍限度を「超えない」と主張。「指定区域の調査から最長で40年が経過し、現状を反映していない」とし、一部原告には騒音があると分かって転入した「危険への接近」理論の適用で、免責や賠償の減額があるとする。

 各地の同種訴訟の判決ではW値75以上を賠償の具体的基準とする流れが定着している。原告は居住から口頭弁論終結までの「過去分」約18億円と、爆音がなくなるまでの「将来分」として1人当たり月額2万3千円の支払いを求める。

滑走路沖合移設の影響

 国は騒音対策として1997年6月、滑走路を約1キロ沖合に移設する工事に着手。提訴翌年の2010年5月に新滑走路の運用が始まった。国は移設前と比べ騒音測定値の平均が下がったことから「騒音は大幅に軽減した」とする。

 一方、原告は「圧倒的な爆音に対し、人間の感覚では違いが判然としない」と主張。住宅防音工事による被害軽減も不十分とする。原告側弁護団によると、音源が移動したケースは他の基地訴訟にはない。移設前後で、原告にもたらされる騒音に変化があったかどうかがポイントとなる。

艦載機移転と 飛行の差し止め

 在日米軍再編で、岩国基地には17年ごろまでに米海軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機59機の移転が予定されている。原告は「爆音が増大する」として夜間・早朝の米軍機、自衛隊機の飛行に加え、艦載機移転の差し止めを求める。

 米軍機について国は最高裁判例を挙げ、「国の支配が及ばない第三者の行為の差し止め請求は不当」とする。過去の基地騒音訴訟でも、米軍機の飛行差し止めが認められた例はない。

東京高裁判決との関わり

 一方、自衛隊機については第4次厚木基地騒音訴訟で初めて認められた。東京高裁は7月、一審横浜地裁に続き飛行差し止めを命じた。原告が民事上の請求に加え、行政訴訟を提訴して勝ち取った。同じ日米共同使用の岩国で、行政訴訟は起こされていない。

 さらに東京高裁は、過去の騒音に限って賠償を命じる判決が続く中、将来分も認める初の判断を示した。その上で自衛隊機の差し止めと合わせ、期間を岩国への艦載機移転を踏まえた16年末までと区切った。

 岩国の判決は、国の責任を厳しく指摘した東京高裁判決を反映するのか。さらに国家賠償を命じられた艦載機の騒音が、移転先の岩国で続くことをどう評価するのか注目される。

<岩国爆音訴訟の争点と主張>

●争点
①原告(基地周辺住民)
②被告(国)

●騒音被害は受忍限度を超えるか
①受忍限度を超えて違法。原告はうるささ指数(W値)75以上の指定区域に住んでおり、健康、生活の両面で被害が発生している
②指定区域のW値は近年の現実の騒音状況を反映したものではなく、受忍限度を超える騒音にはさらされていない

●滑走路沖合移設で騒音はどうなったか
①軍用機の飛行形態に変化があり、騒音が広範囲に広がっている。低周波音の影響もある
②騒音は大幅に軽減し、根本的な解決が図られた

●米軍機と自衛隊機の飛行差し止めの可否
①人格権や平穏生活権が侵害されている上、空母艦載機移転で騒音被害は格段に高まる。差し止めの必要性がある
②基地には高度の公共性があり、認めるべきではない。米軍機については国の支配の及ばない「第三者行為論」を最高裁判例が認めており、訴えは不当

<岩国爆音訴訟をめぐる主な動き>

1997年 6月 国が岩国基地の滑走路沖合移設事業に着工
2006年 5月 日米両政府が、米海軍厚木基地から米海兵隊岩国基地への空母艦載機移転を盛り込んだ在日米軍
         再編のロードマップに合意
2009年 3月 原告476人が山口地裁岩国支部に提訴
     10月 原告178人が同支部に追加提訴
2010年 5月 岩国基地の新滑走路運用開始
2012年11月 一部原告が垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの飛行差し止めを求めて同支部に提訴。岩国爆
         音訴訟と併合審理に
2014年 5月 第4次厚木騒音訴訟で一審横浜地裁が国に約70億円の賠償に加え、自衛隊機の飛行差し止めを
         命じる初の司法判断を示す
2015年 2月 岩国爆音訴訟結審
      6月 普天間騒音訴訟で一審那覇地裁沖縄支部が国に7億5400万円の賠償を命じる
      7月 第4次厚木騒音訴訟の控訴審で東京高裁が一審に続いて自衛隊機の飛行差し止めを命じる。将来
         分の賠償も初めて認め、賠償額は約94億円に
     10月 岩国爆音訴訟判決

(2015年10月14日朝刊掲載)

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