×

社説・コラム

社説 新聞週間 地域の視点を忘れまい

 きょうから68回目の「新聞週間」が始まる。戦後70年、日本が転換期を迎える中、新聞の在り方もあらためて問われる。

 正確かつ深みのあるニュース報道や読者の理解を深める解説・評論記事などの持つ意味は今こそ重い。まさに民主主義の土台の一部であるという自負と使命感を胸に、新聞づくりに力を尽くすことを誓いたい。

 安倍晋三首相はきのう、2017年4月の消費税率10%への引き上げと同時に、軽減税率の導入を検討するよう指示した。低所得者対策としての食料品の扱いが焦点となるが、欧米をはじめ多くの先進国では、新聞や出版物に軽減税率を導入している。「民主主義と言論の自由を守るために必要不可欠」という考え方からである。

 日本においても検討を急いでほしい。ただ、そのためにも新聞の言論機関としての責任がこれまで以上に重くなる。国民の「知る権利」にきめ細かく応えつつ、健全かつ幅広い民意を育むためには読者に届ける中身も充実させて、信頼度をもっと高めていかなければならない。

 地域とともに歩むメディアとして住民本位の身近な視点に徹するのは当然のことだ。例えば災害に関する報道である。

 中国新聞は昨年8月に広島市で起きた土砂災害と復興をさまざまな視点で報じてきた。被災者の暮らしに寄り添い、課題を浮き彫りにする意識調査なども行った。そのために現地支局を1年にわたり開設した。

 しかし復興は道半ばであり、報道の地道な継続こそ力になることを肝に銘じている。災害に強いまちづくりへの提言も重ねていきたい。それは東日本大震災など他の大災害についても同じことである。

 ただ一方で、これまでの報道が読者のニーズに本当に応えてきたのかどうか、謙虚に振り返らねばならない。

 いま国内外には国論を二分したり、答えがなかなか見つからなかったりする難問が山積する。日本が直面する少子高齢化と人口減、さらに加速する地方の疲弊もそれに当たる。「地方創生」の名の下にさまざまな施策が動きだそうとしているが、何より必要なのは地方の厳しい現状を丹念に掘り起こすことだ。これまで伝えきれなかった課題を十分に踏まえ、これからの報道に生かすことを約束する。

 むろん議論が本格化していく環太平洋連携協定(TPP)も重要なテーマだろう。身近な暮らしがどうなるかを読み取り、地域づくりへつなげる未来図を読者とともに考えたい。

 同時に過去を見据えるのも大切だ。被爆70年の節目こそ過ぎたが、被爆地の新聞社として原爆の実相を伝え、核兵器廃絶につなげる責務があることは言うまでもない。被爆者の高齢化とともに生身の証言を聞くのは難しくなっている。それでも丹念に証言を掘り起こし、平和を希求する被爆者の訴えを次代につなぐ決意を新たにしている。

 来年の参院選から選挙権年齢が18歳以上に引き下げられる。インターネットやスマートフォンの普及で新聞を手に取る若者層は確かに減っている。しかし世の中の仕組みや問われる課題を考えてもらい、政治参加に導く上で新聞の役割は大きいはずだ。そのためにも、伝える力に磨きをかけたい。

(2015年10月15日朝刊掲載)

年別アーカイブ