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連載・特集

民の70年 第3部 民主主義の現在地 <4> 異論への圧力

デモ・集会をネット非難 「安保法反対」に脅迫状も

 安全保障関連法案の国会審議が大詰めを迎えた今夏、反対運動で注目を集めたのは母親や若者の動きだった。「赤ん坊まで炎天下のデモに連れてくる馬鹿(ばか)母」「デモは時間の無駄」…。ネット上では非難や冷笑もあふれた。

子の未来のため

 3人の娘を連れ、広島市でのデモや集会に参加した広島県安芸郡の主婦八代佳代子さん(39)は「子どもの体調に細心の注意を払うのは当然」と反論する。加わる「安保関連法案に反対するママの会・広島」の集会やデモは出入り自由。9月の法成立直前は、街頭でアピールを繰り返した。

 会の結成を呼び掛けた同市西区のパート近松直子さん(26)は「母親として子の未来を守りたい一心だが、変わった人と思われているのかも」と打ち明ける。会員制交流サイト(SNS)のフェイスブックにデモの話を書き込むと、賛意を示す「いいね!」が趣味の話題より少なくなる。

 反対運動への非難は、SNSを駆使する若手政治家に目立った。衆院議員はツイッターで「『戦争に行きたくない』という極端な利己的考え」とつぶやき、福岡県の市議はフェイスブックに「就職活動に影響がでる」と書いた。

 広島大3年の田中昌平さん(20)=東広島市=は大学付近で7月にあったデモに参加し、安保関連法案の強行採決への疑問を訴えた。「就活、大丈夫?」「あまり目立たない方がいいんじゃない」。そう声を掛けてくる大学の先輩もいる。「就活に苦労する先輩が心配してくれるのと、政治家が脅すのとは性質が違う。主権者が声を上げると困る人たちが非難を繰り返しているのでは」と受け止めた。

社会を動かす力

 ネット世論に関する著書があり、国会前デモを主導した学生グループ「SEA(シー)LDs(ルズ)」のメンバーとも対談した評論家古谷経衡さん(32)は「政治家に代表される社会的な強者は『自分に大義がある』と信じて発信しているので、圧力になるという自覚はないはず。社会に及ぼす影響を想像する力に欠けている」とみる。

 学生デモへの反感はエスカレートし、SEALDsの中心メンバーに9月末、殺害を予告する脅迫状が届いた。古谷さんは「新しい社会運動を冷やかしたり中傷したりする言説がネットに拡散し、一部の人があおられているのでは」と指摘する。

 島根大法文学部の関耕平准教授(37)は教員有志に呼び掛け、安保関連法に反対する集会などを企画した。ある学生は「国立大の教員が国に『おかしい』と言ってもいいんだ」と驚いたという。関准教授は東京でSEALDsのデモにも参加した。「『異を唱えることは当然』という思いを共有する人が少人数でも励まし合えば、社会を動かす大きな力になる」と信じる。(石川昌義、馬場洋太)

(2015年10月15日朝刊掲載)

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