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社説・コラム

『記者縦横』 静かな空願う岩国の声

■岩国総局・増田咲子

 米海兵隊岩国基地(岩国市)から約150メートルの場所で暮らす流田信之さん(71)の自宅を訪れた。取材中、航空機がひっきりなしに飛び、窓から機影を確認できた。人々の日常のすぐそばに基地があるのだと、あらためて思った。

 流田さんは岩国爆音訴訟の原告の一人。音を聞いただけで米軍機か自衛隊機かを判別できる。長年、騒音に悩まされてきた。膵臓(すいぞう)がんの手術後に自宅へ戻った時は寝付けなかった。がんは肺に転移し、治療中だ。「病気にくよくよせず、静かな空になるのをこの目で見たい」。その言葉が心に残った。

 岩国基地には2017年ごろまでに米海軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機59機の移転が予定され、極東最大級の基地になろうとしている。

 ことし5月、研修で米国を訪れた。軍事関係の専門家の間では、艦載機移転などを踏まえて岩国基地の存在が重要視されていた。「(基地の強化に対し)コミュニティーの覚悟がある」などの意見も聞いた。「岩国は物分かりがいいと思われているのでは」。そんな不安がよぎった。

 15日、岩国爆音訴訟の判決が言い渡された。悲願である夜間・早朝の飛行や艦載機移転の差し止めはかなわなかった。法廷で判決を聴いた流田さんは悔しさをにじませたが、岩国基地の騒音の違法性を司法に初めて認めさせた。安心できる暮らしを求め、住民が声を上げる意味は十分にあったと思う。

(2015年10月16日朝刊掲載)

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