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原民喜 初期の秀作19編 没後60年 花幻忌の会が作品集

 小説「夏の花」などで知られる広島市出身の作家、原民喜(1905~51年)の没後60年を記念し、市内の研究グループ「広島花幻忌の会」が企画した原民喜初期作品集が完成した。全集の絶版などで入手が困難になっている民喜の初期作品に触れられ、貴重だ。

 タイトルは「死と夢 幼年画」。民喜自身が死後の出版を想定し、タイトルを付けてテーマごとにまとめていた「死と夢」シリーズの10編と「幼年画」シリーズの9編を収録する。

 いずれも短編で、1編を除き昭和10年代に文芸雑誌「三田文学」などに発表された。「死と夢」シリーズは、主人公を死者にした幻想的な作品群。「幼年画」シリーズは民喜の少年時代を色濃く反映した作品が目立つ。

 既に絶版となっている「定本原民喜全集」(青土社、78年)の表記に準じつつ、旧仮名遣いを現代仮名遣いに直した。ただ、「獅噛附(しがみつ)く」「視凝(みつ)める」といった当て字は、「民喜自身が意図的に字を選んだ可能性がある」として、読み仮名を添え、原文通り残した。

 収録作執筆当時、民喜は幸せな結婚生活を送っており、中堅作家の一人として文学的充実期を迎えていた。同会の海老根勲事務局長は「幸せの絶頂にあった民喜が、死者の目線で描いた『死と夢』は、当時の文学作品の中でも異質であり、興味深い。『幼年画』も広島の原風景が見事に描写されている」と語る。

 同会では、民喜の生誕祭を兼ねた出版記念会を13日午後1時半から、広島市中区幟町の世界平和記念聖堂で開催。編さんに携わったメンバーによる報告や、作品の朗読などがある。

 A5判、203ページ、千円。同会の長津功三良さんTel0827(97)0826=ファクス兼用。(伊藤一亘)

(2011年11月3日朝刊掲載)

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