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被曝影響 みその効果探る 広島大の渡辺名誉教授がマウス実験

 福島第1原発事故以降、放射線被曝(ひばく)と日本の伝統食「みそ」の関係に注目が集まっている。「みそが被曝の影響を軽減するのではないか」との期待は広島、長崎の被爆者の体験談に端を発する。長年、マウスの実験で放射線とみその関係を研究する広島大名誉教授の渡辺敦光さん(71)に研究成果を聞いた。(森田裕美)

 渡辺さんが参考にしたのは、長崎の医師秋月辰一郎さん(2005年、89歳で死去)の実践だ。自らも被爆しながら負傷者の救護活動に当たった秋月さんは、毎日ワカメのみそ汁や玄米おにぎりを患者や看護師らに食べさせた。

 秋月さんは後に、著書「体質と食物」にこう書いている。「その時、私と一緒に患者の救助や治療に当たった病院の従業員にいわゆる原爆症が出ないのは、その原因の一つは『わかめのみそ汁』であったと私は確信している」。

 そんな体験談から渡辺さんは「広島でも被爆直後にみそを食べて長生きしたという被爆者の話を聞いたことがあり、みそに何らかの効果があるのではと考えた」と振り返る。

 渡辺さんらの研究グループは、1990年からマウスによる実験を繰り返し、みその放射線被曝に対する効果を確認した。

 みそ、しょうゆ、食塩をそれぞれ混ぜた餌を1週間与え、6~12グレイのエックス線を照射。3日後、細胞増殖が盛んで放射線の影響を受けやすい小腸を調べると、みその餌を与えたマウスは他と比較して、より多くの小腸組織が再生されていることが分かった。

 さらに、餌を与える時期やみその熟成期間や産地も変えて実験。エックス線の照射と同時にみその餌を食べたマウスより、以前から食べ続けていたマウスの方が、小腸組織の再生が早かった。

 みその発酵具合では、熟成期間の長いみそほど再生が早かった。渡辺さんは「熟成の段階で生まれる茶色い物質メラノイジンに、放射線防御効果があるのではないか」と推定する。

 外部から受ける放射線だけではなく内部被曝とみその関係をみる実験もある。88年、当時の広島大原爆放射能医学研究所(現在の同大原爆放射線医科学研究所)教授らが、同様にマウスで実験し、みそが体内に入り込んだ放射性物質を排出させる効果を持つ、と発表した。

 こうしたみその効用に期待し、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故後、欧州各国はこぞってみそを輸入した。しかし、実験はマウスによるもの。渡辺さんは「そのまま人間に当てはまるとは言い切れない」とも話す。ただ「少しでも放射線防御の可能性が考えられるなら、日本の伝統食でもあるみそを見直す価値はある」と提案している。

(2011年11月4日朝刊掲載)

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