×

社説・コラム

天風録 「通信使行列に思う」

 日差しは夏に逆戻りしたかのよう。呉市の下蒲刈島で朝鮮通信使の歴史絵巻を見守り、さぞ暑かろうと遠来の若人を思いやった。黄色い衣装に全身を包むのは、韓国富川(プチョン)市で伝統音楽「吹打(チュタ)」に打ち込む高校生たちである▲友好親善を担った行列の再現に、今回も一役買ってくれた。ホラガイに細長いラッパに太鼓…。力強いリズムに思わず体が動く。江戸の世に日本を旅した楽人の姿を、まぶたに浮かべた▲かつて沿道の人たちの心を動かした歌舞音曲は「元祖韓流」だろう。だが光もあれば影もある。島で通信使の行列が復活してからの12年のことを思う。熱い韓国ブームはどこへやら、今や観光ツアーも青息吐息と聞く▲波風立つ現状への危機感ゆえか。国交正常化50年のことし通信使の歴史をたどる動きが日韓で目立つ。下蒲刈にある一行の絵巻を含む史料も来春、世界記憶遺産へ名乗りを上げるという。とかくお騒がせの制度だが、こればかりは後押ししたくなる▲荒波続きの中で首脳会談もようやく実現しそうだ。歴史に目を向けるとしても通信使が来た200年余の平和な時代を忘れたくない。いっそ首脳同士でゆかりの地を毎年、順に訪ねたらどうだろう。

(2015年10月20日朝刊掲載)

年別アーカイブ