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社説・コラム

社説 米アフガン撤退断念 長期駐留の大義 検証を

 オバマ米大統領が、重い決断を下した。2016年末に予定していた米軍のアフガニスタン完全撤退の断念である。

 イラクとアフガンの「二つの戦争終結」は09年に発足したオバマ政権が訴えてきた重大公約である。撤回が政権へのダメージになるのは避けられない。

 単に問題を先送りしただけでは困る。米国は混迷が続く状況に終止符を打つ戦略づくりを急ぐ必要がある。

 米国の「誤算」の背景には、急速に悪化した現地の状況があろう。この9月には、反政府武装勢力タリバンが北部要衝の町を一時的に制圧した。その後、政府側が奪還したものの戦況の悪化には一向に歯止めがかかっていない。さらに東部の各地でも過激派組織「イスラム国」が台頭するなど、まさに泥沼化しているといえよう。

 米国が駐留継続を決めた裏側には「イラクの二の舞い」を避ける狙いもあるに違いない。イラクでは4年前に米軍が退いた後でイスラム国の台頭を招き、「撤退が早すぎた」との批判が国際社会に広がったからだ。

 アフガンでも対応を誤れば、オバマ政権のレガシー(遺産)どころか、大きな負の遺産となる。このため、あえて方針転換を選んだのかもしれない。  だが、任期切れの前に撤退計画を見直すことには当然マイナス面もあろう。次期大統領の就任まで1年余り。課題の丸投げという見方が強まれば、指導力不足が指摘されるオバマ氏に、新たな烙印(らくいん)が押されるかもしれない。

 現地の厳しい現状を踏まえると駐留を続けることに安堵(あんど)する受け止めも当然ある。アフガン大統領府も歓迎している。しかし同時にオバマ政権は、これまでの14年について厳しく検証することが求められよう。

 まず米軍駐留の「大義」である。アフガン戦争は01年の9・11テロを機に、ブッシュ前政権が空爆したことが発端だ。国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者を当時のタリバン政権がかくまった、という理由だった。

 しかしその後、ビンラディン容疑者を米軍が殺害し、本来なら「対テロ戦争」は一区切りついたはずだった。しかし現実にはテロと報復の連鎖に陥り、もはや内戦状態というほかない。

 特別措置法まで作って米艦船の給油をした日本をはじめ、多くの国を巻き込んだ名目がとっくに薄らいではいないか。

 米軍の動向で見逃せないのは長い戦闘状態から人権意識がまひしたのか、民間人の犠牲を考慮しない人命軽視の兆候が見えることだ。とりわけ今月初め、ノーベル平和賞を受けている国際非政府組織(NGO)の「国境なき医師団」が運営する病院を誤爆し、多くの犠牲者を出したのは由々しき事態である。

 こうした誤爆に加え、米本土からの遠隔操作を通じた無人戦闘機による攻撃が、タリバンを決して支持しない人たちの怒りも募らせている。

 いま現地で必要なのは荒廃した国土を取り戻し、農業などの産業を再興することだ。それをおろそかにしたままの平和構築はあり得ない。アフガン問題は来年秋の米大統領選でも争点となろうが、政争の具として治安安定に向けた「空白期間」をつくることは許されない。

(2015年10月20日朝刊掲載)

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