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社説・コラム

『潮流』 「次の節目」に向けて

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長・宮崎智三

 頬に当たる風が涼しく感じられるようになったころ、今夏の「報告」が届き始めた。

 ブラジルやオランダ、フランスのテレビ・新聞の記者たちからだ。いずれも原爆投下から70年の節目を前に、被爆者取材で広島を訪れた。平和メディアセンターのウェブサイトで、何人もの証言を読み、アプローチしてきた。

 海外メディアの取材だけにうまく伝えられるか戸惑ったに違いない。それでも打診した被爆者の多くが、インタビューを引き受けてくれた。

 核保有国や、核兵器の脅威をあまり感じないという南半球の国…。核兵器に対する間合いや日本との距離感はさまざまだ。各国で報じた被爆証言の記事や番組が送られてきたが、いかんせん言葉の壁があって、つぶさに内容は分からない。ただ紙面の大きな扱いなどを見ると、ヒロシマをもっと発信するよう激励されているように思えた。

 この夏、ほかにも多くの国のメディアがヒロシマを取材した。節目の年だから注目されるのは当然かもしれない。その分、先行きに不安も覚える。70年前を知り、伝えてくれる被爆者だからこそ多くの人が耳を傾けてくれる。10年後、どれだけの被爆者から直接証言が聞けるだろうか。

 考えてみれば、広島にとって次の節目は来年かもしれない。4月には、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に先立つ外相会合が開かれる。被爆地として何をどう訴えればいいのか、オールヒロシマで知恵を絞るべきだろう。

 夏には「核使用は一般的に国際法違反」との勧告的意見を国際司法裁判所(ICJ)が示して20年、日本被団協結成から60年となる。12月には原爆ドームの世界遺産登録から20年を迎える。

 やるべきことは、たくさんあるはず―。届いた「報告」に、発信と次世代継承の重みをあらためて突きつけられたように感じる。

(2015年10月22日朝刊掲載)

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