×

社説・コラム

社説 伊方再稼働「同意」 知事の判断に疑問残る

 万一の事故を考えると瀬戸内海の対岸で暮らす私たちにとっても見過ごせない決断である。

 愛媛県の中村時広知事がきのう、伊方原発3号機再稼働への同意を四国電力に伝えた。「安全対策を施した上で、原発に向き合っていかざるを得ない」というのが記者会見での説明だ。

 確かに同意の条件とした中身を見ると、既に再稼働している九州電力川内(せんだい)原発1、2号機の地元の鹿児島県と比べて慎重な姿勢だったのは確かだろう。

 一つは耐震設計で目安となる地震の揺れへの対策である。原子力規制委員会が設定した650ガルを上回る揺れに耐えられる工事を求めた。もう一つ、四国電力に、原発の半径20キロ圏の住民への戸別訪問も要請し、曲がりなりにも実行させた。

 しかし現段階で、安全のための備えが十分できているとは到底思えない。

 知事が再稼働容認の大義名分としたのが安倍晋三首相から引き出した「万一事故があった場合は、政府として責任を持って対処する」という発言である。だが実際問題、どこまで国が責任を持てるというのか。

 原子力損害賠償法は政府の援助を想定しているものの、賠償の責任はあくまでも事業者にあるとしている。もし国の責任を拡大するのであれば法改正が必要であり、議論は道半ばだ。

 つまるところ国民の税金で賄わなくてはならない話である。首相も賠償の具体策まで踏み込んだわけではない。とすると、その言葉にどれだけの重みがあるかは疑わしい。

 知事が11月の避難訓練を待たずに同意を決断したことも納得できない。伊方原発は細長い佐田岬半島の付け根にあり、半島内の移動ルートが限られ、避難の難しさはいまだに解消していないからだ。同意と訓練を「切り離して考える」との説明には首をかしげたくなる。

 原発より半島の奥に住む約5千人が孤立する恐れもあるのにシェルターの定員は10分の1しかない。四国電力は再稼働によって毎月約40億円の収支改善を見込むという。電力料金の値下げを視野に入れるようだが、住民の命を守るための費用を出すのが先決ではないか。

 瀬戸内海への影響が十分に議論されていないのも問題だ。

 原発の北側には巨大な活断層である「中央構造線断層帯」が走っており、現在のシミュレーションで大丈夫かという声が、かねて出ている。仮に放射性物質が海洋に流出すれば、閉鎖水域だけに福島第1原発が面する外洋より拡散に時間がかかる、との指摘もある。

 事故の際の広域的な影響を想定するなら、再稼働に当たって同意を必要とする「地元」が、県と伊方町だけでいいとは思えない。避難者を受け入れる自治体を含め、もっと広くコンセンサスを得るべきではないか。

 このまま全国的に再稼働の流れが加速していいものか。今回の知事の判断基準をこれからの「同意モデル」と見なす向きもあるが、そうではなかろう。

 伊方の再稼働は年明け以降とみられる。原子力規制委は機器の詳細設計認可や使用前検査などを進めるというが、それだけでは足りない。四国電力とともに安全対策を抜本的に見直すことなしに、再稼働に踏み切ることは許されない。

(2015年10月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ