『潮流』 地域の傷痕を知る
15年10月27日
■東京支社編集部長・藤原直樹
旧満州(中国東北部)にも関東にも近いため伝統の金属加工業が軍需産業化した新潟、南西諸島海域への出撃地として、航空特攻戦死者の半数以上を占めた鹿児島…。第2次世界大戦とか、太平洋戦争といった一言ではくくれない。地域ごとに固有の傷痕がある。
先月、広島市であった地方紙フォーラム「戦争を伝える 平和を考える」に地元開催ということで裏方の一人として参加した。本紙をはじめ、河北新報、信濃毎日新聞など全国12紙の記者が、戦後70年をたどる取材や連載を基に報道の在り方や悩みを話し合った。
フォーラムの詳報は今月16日付の紙面で紹介したが、各記者が丹念に掘り起こした史実や証言を聞き、地元以外の戦災の歴史について自分がいかに知らないかを痛感した。そして記者に共通していたのは「まだ掘り起こされていない証言や事実がたくさん眠っている」との思いだ。
かつて自分も岡山支局時代に、戦後50年企画「郷土の戦災」の連載を担当した。岡山市の空襲は証言者も関係資料も多かったが、玉野市の空襲に関しては資料が少なく、取材に時間がかかった覚えがある。それもそのはず。実は憲兵隊が県民の動揺を恐れ、被害を隠すように指示していたというのだ。
当時を知る人を訪ね歩き、実際に口止めされていたという話を数人から聞くことができた。市職員だった男性は、憲兵隊から指示を受けたと証言した。住民の中にも知らない人が多かったという。爆弾の破片の直撃を受け、目の前で母親を亡くした女性の言葉は今も胸に残る。「母のためにも事実をきちんと後世に伝えてほしい」
史実は埋もれたり隠されたりする。戦後70年の節目を過ぎても、地道に証言を掘り起こす取材を続けていかなくては。あらためて、そう感じている。
(2015年10月27日朝刊掲載)
旧満州(中国東北部)にも関東にも近いため伝統の金属加工業が軍需産業化した新潟、南西諸島海域への出撃地として、航空特攻戦死者の半数以上を占めた鹿児島…。第2次世界大戦とか、太平洋戦争といった一言ではくくれない。地域ごとに固有の傷痕がある。
先月、広島市であった地方紙フォーラム「戦争を伝える 平和を考える」に地元開催ということで裏方の一人として参加した。本紙をはじめ、河北新報、信濃毎日新聞など全国12紙の記者が、戦後70年をたどる取材や連載を基に報道の在り方や悩みを話し合った。
フォーラムの詳報は今月16日付の紙面で紹介したが、各記者が丹念に掘り起こした史実や証言を聞き、地元以外の戦災の歴史について自分がいかに知らないかを痛感した。そして記者に共通していたのは「まだ掘り起こされていない証言や事実がたくさん眠っている」との思いだ。
かつて自分も岡山支局時代に、戦後50年企画「郷土の戦災」の連載を担当した。岡山市の空襲は証言者も関係資料も多かったが、玉野市の空襲に関しては資料が少なく、取材に時間がかかった覚えがある。それもそのはず。実は憲兵隊が県民の動揺を恐れ、被害を隠すように指示していたというのだ。
当時を知る人を訪ね歩き、実際に口止めされていたという話を数人から聞くことができた。市職員だった男性は、憲兵隊から指示を受けたと証言した。住民の中にも知らない人が多かったという。爆弾の破片の直撃を受け、目の前で母親を亡くした女性の言葉は今も胸に残る。「母のためにも事実をきちんと後世に伝えてほしい」
史実は埋もれたり隠されたりする。戦後70年の節目を過ぎても、地道に証言を掘り起こす取材を続けていかなくては。あらためて、そう感じている。
(2015年10月27日朝刊掲載)