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伊方原発 再稼働へ <下> 地元とは

周辺自治体 意思示せず 対象拡大 要請が相次ぐ

 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)から南東に約15キロ離れた同県西予市。市役所では、危機管理課の職員4人が11月に予定される国の防災訓練の準備などに追われていた。東京電力福島第1原発の事故後、国が原発から10キロ圏としていた原子力防災の重点区域を30キロ圏に広げたためだ。

 原発への立ち入り調査、避難計画作り、国や県との調整作業…。福島の事故後は繁忙が極まる。「厳しい人員の中で対応している」と担当者。業務量は増すばかりなのに、自治体として原発の運転に意思を示せる「権限」はない。西予市と隣の宇和島市が8月にした住民アンケートでは、再稼働反対が賛成を上回った。

四国電は否定的

 新規制基準に基づく審査を通った原発の再稼働への地元同意は、伊方原発が2例目。既に再稼働した九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)に続き、県と原発が立地する市町だけの同意で済ませる手法が繰り返された。

 そもそも地元同意は法的な手続きではない。電力会社と、原発のある自治体が締結する安全協定が根拠になっている。四国電は現在、愛媛県と伊方町だけと協定を結んでおり、両者の同意で十分という理屈だ。

 中村時広知事が同意を表明した26日、四国電の佐伯勇人社長は西予市など原発周辺の自治体の同意を得ることについて「望ましいが、定めたものがない」と否定的な見解を示した。電力会社からすれば、もし同意の「地元」を広げれば再稼働のハードルが上がると考えているのは間違いない。

 しかし、中国電力島根原発(松江市)の周辺自治体では、新たな動きもある。鳥取県の平井伸治知事は1月、地元同意の手続きについて川内原発のケースを「先例としないでほしい」と国に訴えた。同県は島根原発から最短で17キロに位置しており、立地自治体並みの安全協定の必要性を中電にも主張する。

 米子市の主婦渡辺紀子さん(67)は「周辺自治体の意見を聞くのは当然。事故が起これば放射性物質がどこまで広がるか分からない」と不安がる。島根県内では出雲、雲南、安来の3市も鳥取県と同様の要請をしている。だが、中電は「協議を継続する」との回答にとどまっている。

30キロ圏で十分か

 島根県の溝口善兵衛知事は、国が「地元」の定義を決めるよう求める。これに対し、林幹雄経済産業相は「各地の事情はさまざま。国が一方的に、一律に決めることでない」と現状維持の姿勢を崩さない。

 さらに「地元」を原発から半径30キロ圏に広げれば十分かという問題もある。福島の事故では、放射性物質が30キロ圏を越えて飛散した。

 愛媛県の同意前、県議会には広島、山口両県の住民が再稼働に反対する請願を28件出し、いずれも不採択となった。提出した一人、廿日市市の市民団体役員伊達純さん(54)は「事故があれば、放射能汚染は広島県にも及ぶ可能性がある」と強調する。再稼働の手続きは原発の「地元」とはどこなのかを問い掛けている。(河野揚、川井直哉、川崎崇史)

(2015年10月29日朝刊掲載)

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