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社説・コラム

社説 辺野古本体着工 「強権」政治の行く先は

 異様な事態である。きのう政府は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先となる名護市辺野古沿岸部で、本体工事に強引に着手した。

 国は翁長雄志(おなが・たけし)知事による埋め立て承認取り消しの効力停止を決定し、知事の権限を取り上げる「代執行」の手続きにまで入った。国と県との対立は法廷に持ち込まれようとしている。

 同じ日に菅義偉官房長官は米軍再編計画に基づき、在沖縄米海兵隊が一部移転する米領グアムを視察に訪れた。負担軽減は忘れていないとアピールしたいようだが、これで沖縄の人たちの憤りが収まるはずもない。

 日米両政府による既定路線なのだから国が主導権を持つのは当然であり、自治体や住民の思いなど、どうでもいい。それが安倍政権の認識なのだろう。安全保障政策が国の専管事項とする考え方があるのも確かだ。しかし、これは本質的には地方自治の侵害でもあろう。

 この手法を突き詰めていけばどうなるか。引き受け手が見つからない「迷惑施設」、例えば放射性廃棄物の最終処分地を選定する際などに、同じようなことが繰り返されても不思議ではない。沖縄以外の地域にとっても決して人ごとではない。

 とりわけ見過ごせないのは国が突然、代執行という「伝家の宝刀」を抜いたことである。

 工事差し止めなどを求める県の提訴が先回りすれば、最高裁まで何年もの時間を費やすことにもなりかねない。だが代執行をめぐっての裁判は比較的短期で済むとみられている。

 来年1月には普天間飛行場のある宜野湾市で市長選がある。さらに夏には県議選に加えて参院選も控えている。問題が長引けば、逆風が強まる結果になりかねない。沖縄の機先を制し、さっさと片を付けたい意向が働いたとも受け取れる。

 もちろん安倍政権のシナリオ通りに進むとは限るまい。県民は知事選などで何度となく、「辺野古移設はノー」と国に突き付けてきた。その民意を無視した代執行の手法には「強権」政治のイメージが拭いきれない。

 実際、翁長知事は「強権極まれり」と政府の姿勢を批判した。対抗措置として、第三者機関の国地方紛争処理委員会に審査を申し出るという。この8月からの官房長官との集中協議前に逆戻りするどころか、不信感の溝はさらに深まっている。

 強引な手法が目に余るのはこればかりではない。知事の取り消し処分に対する行政不服審査の手続きもそうだ。そもそも国民を救済する制度なのに、今回は防衛省の職員が「私人」として申し立てた。実態はしょせんは省庁間の話にすぎず、沖縄側の不利になるのは火を見るよりも明らかではないか。

 移設に反対する名護市長の頭越しに直接、辺野古周辺の集落に振興費をばらまくのも首をひねりたくなる。容認への露骨な見返り策にほかならず、地域社会にさらなる亀裂が入りかねない。「基地問題と振興策は別物」との説明とも矛盾しよう。

 ここに至っては司法の場に判断を仰ぐのは仕方あるまい。ならば冷静かつフェアな審理ができる環境を担保する必要があろう。争点の移設工事が既成事実となってしまえば差し障りが出ないはずはない。工事はいったん中止すべきである。

(2015年10月30日朝刊掲載)

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