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社説・コラム

『記者縦横』 平和の鐘 日米の懸け橋

■東広島総局・森岡恭子

 東広島市を訪れたキャロライン・ケネディ駐日米大使は、鳴り渡る鐘の音にじっと耳を澄ませていた。今月24日。半世紀余り前、亡き父のジョン・F・ケネディ元大統領が日本福音ルーテル西条教会に届けた贈り物だ。

 教会によると、もとは米海軍の駆逐艦の鐘。米国に一時帰国した西条教会の宣教師が教会に鐘がないと話し、聞きつけた米国の少年がホワイトハウスに手紙を出した。1962年12月。大統領は鐘を探し、教会にプレゼントした。

 大使の傍らにも、万感の思いで鐘の音に聞き入った人がいた。3月に離任するまで教会の牧師だった鐘ケ江昭洋さん(71)=埼玉県飯能市。大使が着任した際に鐘の由来を説明、「ぜひ西条に」と呼び掛ける手紙を送っていた。「戦艦に載せていた鐘が被爆地に来て日米のつながりを強める平和の鐘になった。象徴的なものを感じる」と感慨深げだった。

 62年といえば、核戦争の緊張が高まったキューバ危機の年。大統領はどんな思いでヒロシマに鐘を贈ったのか。大統領の心を動かした少年の言葉とは。今回大使が持参した少年の手紙と大統領特別補佐官が少年に宛てた返書の写しに答えがあるのではと期待していた。

 いずれにも被爆地への特別な言及はなかったが「広島の教会に兄弟愛の証しとして鐘を贈りたい」という少年の素直な言葉を見ることができた。鐘は今も現役だ。礼拝のたび街に澄んだ音色を響かせている。

(2015年10月30日朝刊掲載)

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