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シベリア抑留 生の体験記 92歳品川さん、特別授業 江津の高校

 シベリア抑留の体験記「凍った大地に」が10年ぶりに復刊された品川始さん(92)=島根県邑南町=を、江津市浅利町、キリスト教愛真高が校内の特別授業に招いた。戦争の痛みを肌身で知る世代の話に、全校生徒と教職員の約70人が耳を澄ませた。

 品川さんは20歳の時、歩兵第232連隊の一員として浜田市から中国の揚子江流域に送られた。ひとたび銃を持つと、僧職や教員だった仲間も人が変わったようになったことを紹介。「情けも法もない。戦争は勝たねば…」と思い込んでいく心理を振り返った。

 敗戦は、転戦していた中国東北部で迎え、当時のソ連軍にシベリアに連れて行かれた。鉄道の枕木作りに駆り出された野外の寒さを「錐(きり)で背筋を刺されるようだった」と表現。ろくな食事にありつけず、冬を乗り切れなかった仲間を埋葬した記憶をたどると、メモの手を止めて聞き入る生徒もいた。

 品川さんは、内戦などによる難民が欧州に流れ込んでいる現状を踏まえ、敗戦までの日本社会に難民はいなかったとも指摘。「勝った、負けたと言ってもしょせん、海の向こうの話でしかなかった。戦争をわが痛みと感じた者がどれほどいたか」と問い掛けた。

 講演後、生徒たちからは、寒さやひもじさで「生きる希望がなかった」という極限状態への質問が続出。戦前、広島市内の映画館で看板絵師の見習いをするほど好きだった絵が慰めとなり、収容所内で出す壁新聞の挿絵としても重宝されたことなどを答えた。

 同高では毎年、戦争責任について知り、考える授業を設けている。栗栖達郎校長は「生の証言に、生徒たちが接した意味は重い」と話していた。(石丸賢)

(2015年11月2日朝刊掲載)

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