×

社説・コラム

社説 日韓首脳会談 慰安婦問題をどう解決

 日韓の正式な首脳会談が3年半ぶりにようやく実現した。安倍晋三首相と朴槿恵(パク・クネ)大統領が従軍慰安婦問題を含む幾つもの懸案について、突っ込んだやりとりを交わしたようだ。

 歴史認識などをめぐって関係が悪化したものの、一衣帯水の国同士である。トップ会談がこれほど長きにわたって開かれなかったこと自体が異常だ。何より両国はその反省に立ちたい。首脳の直接対話が復活しただけでも大きな意味があろう。

 日本による朝鮮半島の植民地支配が終わって70年、さらに日韓国交正常化50年という節目の年が、互いのわだかまりを残したまま終わろうとしているのが現状だ。日韓の良好な関係なくして東アジアの平和も繁栄も成り立たない。そのことを肝に銘じ、きのうの会談を事態を打開していく糸口にすべきだ。

 会談の詳細は明らかにされていないが、焦点の慰安婦問題をめぐって首相が踏み込んだ姿勢を見せたといえよう。できるだけ早期の「妥結」のために局長級協議などの交渉を加速化させることで両首脳が合意した。国交正常化50年を意識し、年内決着を模索していくとみられる。

 朴大統領が会談で述べた通り両国関係の最大の障害であり、韓国側が首脳会談に難色を示す理由としてきた問題である。事前の事務レベル協議でも溝があり、きのうの会談でも平行線をたどるとの予想が強かった。しかし日本が歩み寄る余地があることを安倍首相自ら示したとの見方もできる。韓国政府が会談を一定に評価するのも、その点に期待しているからだろう。

 ただ首相は従来の姿勢は軌道修正しつつ、1965年の日韓請求権協定を踏まえて「問題は解決済み」とする見解は崩していない。その上で韓国の理解を得られる解決策を見いだすのは確かに簡単ではない。

 11月中にも外交当局者の協議が始まるとみられる。交渉の行方は見通せない。朴大統領が「解決」と考える具体的な条件は明示されていないが、日本政府による責任の明確化や賠償が念頭にあるとみられる。主張の隔たりは現時点では大きい。

 だが何の進展もないまま、ずるずる問題が先送りされることは決して好ましくない。

 高齢化する元慰安婦らの現状を踏まえ、賠償や謝罪とは切り離して人道的見地で対応は可能だという声が、日本の政府与党内にも出ている。元慰安婦らを対象に「償い金」を支給した基金のフォローアップ事業の拡充が検討されている節もある。

 それで国内世論を恐れる韓国政府が納得するかは別として、日本として切り得るカードをまずは韓国側に示し、相手の歩み寄りを促していく。そんな誠実な姿勢が必要ではないか。

 慰安婦問題で日本政府が謝罪した93年の「河野談話」を安倍政権としても継承すると明言していることも忘れてはならない。8月の「安倍談話」でも首相は戦場において「深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいた」とあえて言及した。歴史認識以前に、看過できない人権侵害だったという点に謙虚に立ち返りたい。

 この問題で両首脳は「将来世代に障害を残すことがあってはならない」との認識で一致したという。その言葉を守れるかは目の前の行動に懸かっている。

(2015年11月3日朝刊掲載)

年別アーカイブ