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ヒロシマ伝えることは責任 児童文学作家の朽木祥さん 広島講演

 被爆70年の夏に合わせて文庫化された短編集「八月の光・あとかた」をはじめ、ヒロシマを題材に物語を紡いできた、広島市出身で被爆2世の児童文学作家朽木祥(くつき・しょう)さん(58)=神奈川県鎌倉市。郷土で、「『記憶』を物語るということ」と題して講演した。

 「広島に生まれ育った私たちには想像しにくいかもしれないが、世界では、驚くほどヒロシマの真実が伝わっていない」。それが実感だ。例えば、ことしに入り、ロシアのプーチン大統領が「核兵器使用の準備を指示していた」と発言。核の脅威は厳しさを増す。

 だからこそ、原爆をテーマにした作品が書かれ、世界に発信される必要性を訴える。「ヒロシマという大事件を、人類全体の問題と捉えて記憶し、伝え、二度とこの悪魔的兵器の犠牲にならないようにしなければならない」と強調した。

 朽木さんは2005年にデビュー。「彼岸花はきつねのかんざし」「八月の光」「光のうつしえ」と、ヒロシマに関わる作品を発表してきた。「実際にその場にいなかった者が、ヒロシマを描くことの恐ろしさや難しさには大変なものがある」と打ち明ける。それでも踏みとどまるのは「過去の負の記憶を伝えることは、私たちの責任でもある」と考えるからだ。

 その上で、自らの問題として子どもたちの心に刻んでもらうにはどうすればよいのか。「あの日、あの場に居合わせた人々の小さくて、ささやかな物語を描いていく。そうすることで、それぞれの日々が掛け替えのない光を持って立ち上がり、原爆投下という事件の大きさがはっきりと認識されるのではないか」と語る。

 13年刊行の「光のうつしえ」では、芸術の力をモチーフの一つにした。中学生が被爆証言を聞き取り、絵画などで表現していく物語。「もし戦争が始まれば、美術や音楽の科目はなくなり、心の自由が奪われていく」。安全保障関連法案の議論をめぐっては、全体主義の恐れも感じ「その先に待っているのは必ず戦争だ」と警鐘を鳴らす。

 それでも、「子どもたちが読書の楽しさを知り、美術や音楽を生活の一部として育てば、心の自由を縛る芽がチラッと見えた時点で嫌だと言える。自由を尊重する心を育てるのも児童文学の役割だと思う」。

 講演は、広島市の被爆70周年記念事業の一環で、市こども図書館が開いた。(石井雄一)

(2015年11月4日朝刊掲載)

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