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「黒い雨」援護拡大を 広島の64人 被爆手帳求め提訴

 広島の原爆投下後に降った放射性降下物を含む「黒い雨」を浴びて健康被害を受けたのに、被爆者健康手帳などの交付申請を却下したのは違法として、広島市などに住む70~90歳の男女計64人が4日、広島市と広島県の却下処分の取り消しを求めて広島地裁に提訴した。原告は、黒い雨被害に対する国の援護対象拡大を目指しており、事実上は国と争う集団提訴となる。

 黒い雨の援護を巡り、国は爆心地から市北西部にかけて「大雨地域」(長さ約19キロ、幅約11キロ)を援護対象区域に指定。区域内で雨を浴びた住民たちに「第1種健康診断受診者証」を交付し、無料の健康診断を実施するが、区域から外れれば援護はない。一方、市と県は区域を約6倍に広げるよう国に要望したが国は2012年に「科学的根拠がない」と退けている。

 原告は広島市、広島県安芸太田町、安芸高田市、府中町に在住。訴状によると、黒い雨の被害を受けた原告は「身体に原爆の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」と定めた被爆者援護法の「3号被爆」に当たると主張し、被爆者健康手帳の交付申請の却下処分を取り消すべきだとしている。

 また、専門家の研究に基づき市などが求めた区域拡大を国が退けたのは「非科学的で不合理」と指摘。「対象区域の指定が狭すぎ、著しい不平等を招いている」として、第1種健康診断受診者証の取得申請の却下取り消しも求めた。

 提訴後、中区であった報告集会には、原告や支援者たち約90人が参加した。高野正明原告団長(77)=佐伯区=は「区域拡大を求めてから37年間を経て、訴訟という最終手段に踏み切った」と強調。広島敦隆弁護団長は「提訴していない人も含め、救済の道を開きたい」と述べた。

 原告はことし3~7月、被爆者健康手帳などの交付を県市に申請したが、いずれも却下された。松井一実市長と湯崎英彦知事は「国に対象区域の拡大を求めたが実現せず、現行の法律・政令に基づいて却下をせざるを得なかった。提訴された内容を見て、国とも協議し、適切に対応したい」とのコメントを出した。(浜村満大)

(2015年11月5日朝刊掲載)

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