×

ニュース

科学者と保有国 平行線 パグウォッシュ会議閉幕 日本に厳しい目

 長崎市で5日閉幕した「パグウォッシュ会議」の世界大会は、被爆70年の節目に被爆地で核兵器の非人道的な被害に向き合い、廃絶に向けた議論の促進を試みた。会議の理念である「対立を超えた対話」による政策への働き掛けを目指したが、廃絶を訴える科学者らと核兵器保有国の政府高官らの討議は平行線をたどった。

 初日の全体討議に登壇した米国とロシアの軍縮担当者は、現状では核抑止力が安全保障に不可欠として段階的な軍縮を主張。非人道性に焦点を当てて核兵器禁止条約の締結を目指す動きを支持する科学者らの反論に対して、両者は「非現実的だ」と退け、自国の論理を変えなかった。

 「非人道性をめぐる国際世論の高まりを警戒し、米ロなどの保有国がそろって法規制の議論に抵抗する傾向が今後強まるだろう」。参加した長崎大核兵器廃絶研究センターの梅林宏道前センター長は言う。「長崎宣言」にも盛り込まれた核兵器の法的禁止に向け、新たな多国間協議の場の創設が必要とみる。

 一方、被爆国日本への科学者らの目も厳しさを増した。会期中に国連総会第1委員会(軍縮)で、核兵器禁止に向けた法的枠組みづくりの努力を呼び掛ける決議案の採択を、日本政府は棄権したからだ。

 今大会の鈴木達治郎組織委員長は「10年前の広島大会との違いの一つは『核の傘』にある国も変わらないと廃絶が進まないという認識の高まりだ」と分析する。世界大会の宣言に、「核の傘」に頼る安全保障からの変革を求める一文が初めて盛り込まれた背景にもなった。政府がこれをいかに受け止めるかが問われる。

 会議参加者からは、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に先立ち来年4月に広島市で開かれる外相会合について、非人道性の認識を深めてもらう好機と期待する声が上がった。「人間性を心にとどめ、その他は忘れよ」―。会議のきっかけとなった「ラッセル・アインシュタイン宣言」(1955年)がいう、政治的な対立を超えた対話に被爆地が果たす役割は大きい。(水川恭輔)

(2015年11月6日朝刊掲載)

年別アーカイブ