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社説・コラム

社説 もんじゅに勧告 廃炉前提に政策見直せ

 原子力規制委員会は、高速増殖炉もんじゅ(福井県)の運営主体を変えるよう文部科学省に勧告することを決めた。現在の日本原子力研究開発機構には安心して任せられない、と見切りをつけた格好になる。

 規制委初の勧告が与える衝撃は大きい。もんじゅは政府が進める核燃料サイクルの要となる施設で、その廃炉が現実味を帯びてきたからだ。仮にそうなると原発から出る「核のごみ」の行き先が今以上に見通せなくなり、日本の原子力政策全体の見直しを迫られることになる。

 規制委が重い決断に踏み切ったのは、度重なる機器管理のミスなど機構のずさんな体制が理由である。安全を守るためで、その判断自体は当然だろう。

 2012年には1万件に上る機器の点検漏れが発覚し、運転禁止命令が出されていた。規制委は再三、機構への指導を文科省に求めたが抜本的な対策は取られなかった。所管官庁なのに危機感の乏しさにはあきれる。

 馳浩文科相は「極めて重い決断と厳粛に受け止めている」と述べたが、どうするつもりなのだろう。もしも勧告が現実となれば廃炉の可能性が増す。機構の代わりの運営主体を探すのは極めて困難だからだ。

 高速増殖炉は冷却にナトリウムを使う特殊性があり、経験のある機構以外の組織が担うのは難しい。もんじゅの担当部門がそのまま新たな法人に移る「看板の掛け替え」でお茶を濁せばいいという声は出てこよう。

 しかし規制委が言う通り、安全が担保されない現状ではその手法は不可能に近い。電力各社に肩代わりしてもらうにも、原発の再稼働に向けた準備で手いっぱいだ。つまり機構と文科省は退路を断たれたに等しい。

 長年、指摘されてきたコストの面の行き詰まりからも目を背けてはならない。臨界に達した翌年の1995年にナトリウム漏れ事故で停止。その後ほとんど動いていないのに1兆円を超える巨費が投じられ、維持費だけでも毎年200億円かかる。欧米で事故の続発や高コストを理由にほとんどが撤退しているのとはあまりに対照的だ。

 それでも日本政府がもんじゅを維持してきたのは、もんじゅが廃炉となれば、核燃料サイクルは事実上破綻するからだ。

 原発の使用済み燃料を再処理してウランとプルトニウムを混合酸化物(MOX)燃料にしても、それを利用する中核施設がなくなる。サイクルが機能しなければ核兵器に転用可能なプルトニウムが増えるばかりで、国際社会から疑われかねない。

 こうした現実は政府も分かっているはずだ。林幹雄経済産業相がきのう「核燃料サイクル政策に直接影響を及ぼさない」と語ったのは明らかにおかしい。この際、もんじゅ廃炉を前提としたエネルギー政策の抜本的な見直しをしなければ、国民の不信感は募るばかりとなろう。

 規制委にも注文したい。勧告というボールを政府に投げるだけでいいのか。福島第1原発事故の反省から中立公正な専門家集団として「原子力利用の安全確保を図る」役割を担う。ならば、もんじゅだけを切り離して批判するにとどまらず、その先の核燃サイクルの行方や使用済み核燃料の処分についてもどうすべきか、具体的な提言をする必要があるのではないか。

(2015年11月7日朝刊掲載)

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