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研修支えた「サポーター」 サッカーアフガン女子代表広島訪問 非戦願う輪 市民に広がる

 国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所の招きで9月に広島市を訪れ、研修したアフガニスタンのサッカー女子代表チーム。スポーツを通じて女性の社会参画と平和な社会づくりを学ぶ選手を、縁の下で支える「サポーター」がいた。広島に住むアフガン人は懸命なプレーに励まされた。選手だけではなく交流した市民にも、戦争のない世界を願う輪が広がった。(山本祐司)

 親善試合で大勝した、なでしこリーグ2部のアンジュヴィオレ広島。運営するNPO法人広島横川スポーツ・カルチャークラブのスタッフで、試合の進行役を務めた沓内(くつない)正明さん(48)は「アンジュの選手も、自由にサッカーが楽しめる環境の大切さをかみしめた」と振り返る。

2ヵ月の準備期間

 女性の教育やスポーツがタブー視されるアフガン社会。練習環境の違いもあり実力の差ははっきりしていた。「親善」とはいえ、ピッチで一切妥協しない両チームのイレブン。「どちらにとっても一回一回が自らを伸ばすチャンス」。終了後、選手たちのすがすがしい表情に胸を熱くした。

 約2カ月という準備期間に沓内さんらスタッフも国際試合の進め方を学んだ。8月に広島で開かれた平和祈念広島国際ユースのウズベキスタン戦を見学。国旗を持った入場や国歌斉唱のタイミングを把握した。地元で最高のエディオンスタジアム広島(安佐南区)という舞台も用意。同クラブの三谷光司事務局長は「復興した被爆地を見て、平和を発信してもらえるなら喜ばしい。スポーツはその手段になる」と期待する。

 スタンドには、アフガンから留学した広島大生ら約15人が応援に駆け付けた。うち、1998年から日本に移り住んでいる会社員クイ・ハレットさん(34)=東広島市=は家族3人と観戦。日本に来て周囲が母国についてあまり知らず、さみしい思いをしてきた。「日本の空に揚がる国旗を見てうれしかった」

 もともとサッカー好き。首都カブールの公園でボールを蹴っていた来日前の16歳の時、タリバン兵士らしき男にボールをナイフで刺され「サッカーをするな」と脅された。「戦争で生活は壊されたが、乗り越えて今がある。ボールを追う選手から元気をもらった」

「ハラル料理」用意

 広島の人がアフガン選手を支えたのは、プレーだけではない。食事には、イスラムの戒律に沿った「ハラル料理」が必要だった。食材に豚肉を使わないだけでなく、まな板や包丁、鍋も別にするなど厳しい制限がある。今回は、一部の食事をインド料理店「カナック」(中区)が調理した。

 ハラル用に認められた鳥肉を使い、ナンで巻いた料理やカレーを作った。アフガン向けにまろやかな味付けに工夫した。経営するチョードリー・サマールさん(35)は「広島でも、安心な食事で選手に頑張ってもらいたかった。平和を築く役に立ちたい」。

 6日間にわたる被爆地では初めての研修。ユニタール広島事務所の隈元美穂子所長は「現地の女性のリーダー格といえる彼女たちを広島の人々が温かく迎え入れてくれた。スポーツと平和を結びつける広島ならではの取り組みを今後も続けたい」と話す。

アフガニスタンのサッカー女子代表チームの広島研修
 国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所が9月16~21日、選手15人と監督やコーチら4人を広島市に招き実施。原爆資料館見学や被爆証言を通し、戦争の惨禍から復興した歩みを母国の姿に重ねて学んだ。高校生との日本文化体験やアンジュヴィオレ広島との親善試合などで交流。リーダーシップなどの講義も受け、サンフレッチェ広島と広島東洋カープの試合を見学、スポーツと平和の結びつきを実感した。

(2015年11月10日朝刊掲載)

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