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桜江で漁師飯「つみれ汁」 「福島の食伝え 復興の背中押したい」 被災の菊地さん 祭りで200食振る舞う

 東日本大震災で被災した福島県相馬市の漁業菊地基文さん(39)が8日、島根県江津市桜江町であった桜江いきいき祭りで漁師飯「どんこのつみれ汁」を振る舞った。「福島の食を全国に伝え、復興の背中を押したい」。福島の郷土料理を約千キロ離れた山陰に初めて届けた。(松本輝)

 どんこは北海道や東北地方で水揚げされるタラ科の魚。白身に肝を練り込んで作ったつみれは軟らかく、肝の脂が染み出て豊かな風味がする。

 あの日、菊地さんは津波で相馬市内の自宅が流され、高台に逃げた。陸に打ち上げられた漁船の底には穴が開いていた。翌日には福島第1原発事故が発生し、妻の明日香さん(38)と、数時間前に生まれたばかりの次女雫月(しづき)ちゃん(4)たち家族4人を車に乗せ、秋田県能代市まで避難させた。

 2012年6月、漁の試験操業が再開されたが、認められたのは週1回、ツブ貝、イカ、タコの3種類だけ。「このまま福島の漁業を絶やしてはいけない」。全国に頑張っている福島の姿を伝えようと13年1月、地元漁師のまかない料理のひとつだった、どんこのつみれの生産、出荷を仲間と始めた。漁の合間に全国のイベント会場に足を運び、つみれ汁を紹介している。

 だが、どんこは今も地元では漁が認められていない。そのため、青森や北海道から仕入れたどんこを使う。この日、桜江の会場では約200食を用意。味わった教員渡辺勝義さん(49)=同町=は「身がふわふわで優しい味」と笑顔を見せた。

 菊地さんは昨年7月、相馬市内に家を建て直した。「将来、雫月に、僕らの手でこのまちを立て直したんだって胸を張りたいんです」。試験操業で漁獲が可能な魚種は、64種類まで増えた。

 「でも、相馬産のどんこ汁を食べてもらいたい。まだまだ復興はこれから」。「NO DONCO, NO SOMA.」(どんこ無くして相馬なし)と書かれたTシャツの袖で汗を拭い、笑った。

(2015年11月11日朝刊掲載)

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