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連載・特集

18歳の1票へ向けて <上> 学校現場

中立性意識 授業手探り 「物言えぬ」教員困惑

 公選法改正により選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられる。来年夏の参院選は、18歳、19歳が票を投じる初の選挙となりそうだ。来年、18、19歳になる人口は、2010年国勢調査を基に単純計算すると中国地方で約14万人。新たに誕生する有権者をめぐり、困惑と期待が交錯する教育や行政、政党の現場を見る。

 4日、尾道市の尾道北高であった広島県明るい選挙推進協議会による選挙出前講座。1票の重みをテーマに選挙権獲得の歴史などを話した池原聡副会長(61)は、真剣なまなざしを向ける2、3年生約400人に「皆さんに与えられた1票を日本の将来のために生かして」と呼び掛けた。

 同高の好村孝則校長(58)は「基礎知識を伝えるだけでなく、自ら考え投票する力を育てないといけない」と見据える。全学年を対象に、消費税の引き上げなど身近なテーマを取り上げ、生徒が主体的に情報収集や議論に取り組む授業をする予定でいる。

 文部科学省は10月末の都道府県教委への通知で、現実の課題を取り上げた「実践的な指導」を学校で展開するよう求めた。ただ同時に、教員が「個人的な主義主張」を述べず「公正かつ中立な立場」を保つ必要性も強調。学校現場は神経をとがらせている。

柳井高の騒動念頭

 広島市内の私立高の社会科主任教諭(41)は、主権者教育の進め方について校内で検討を重ねている。「政策に課題があるからこそ議論になる。例えば、賛否が割れるような政策を扱うことが政権批判や特定の政党への支持だと言われる可能性があるなら、授業は成立しない」と打ち明ける。

 この教諭が念頭に置くのは、今夏の柳井高(柳井市)での授業をめぐる騒動だ。審議中だった安全保障関連法案をテーマに模擬投票を実施したことに、自民党県議が中立性に問題があると山口県議会の定例会で指摘。教育長が謝罪する事態となった。多くの教員たちは「中立性」に敏感になっている。

 広島県内では「具体的な授業内容はこれから検討する」と、慎重に議論を進める学校も少なくない。県教委の研修や指導を待つ学校も多い。

 文科省は6日の都道府県教委向けの説明会で、教員が自らの意見を言わないようあらためて求めた。だが、県高教組の門長雄三書記長は「教育はキャッチボール。『先生はどう思う』という生徒の問いに、教員が『個人的な意見は言わない』では生徒は信頼しないし、議論も生まれない」と方針を疑問視する。

複数の報道活用を

 近く投票権を持つことになる高校生たちも指針や助言を求める。皆実高3年の女子生徒(17)は「今の社会で何が問題になっているのかが分からない」。広島市立工業高3年の男子生徒(17)は「安保法とかニュースに関心はあるけど、誰に投票するか、それをどう決めたらいいかは考えたことがなかった。授業で具体的に扱ってほしい」と望む。

 広島大大学院教育学研究科の小原友行教授(社会科教育)は「中立性を意識するあまり、意見の分かれる現実の課題に向き合うことを避けてしまってはいけない。主張の異なる複数の報道を活用するなどして、生徒が多様な考え方から自ら未来を選択し、つくり出す力を育む教育本来の狙いを大切にしてほしい」と話している。(明知隼二)

18歳選挙権
 選挙権年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げる選挙制度の変更。改正公選法が6月に成立、来年6月に施行されるため、同月以降の国政選挙に適用される。1945年に20歳以上の男女に選挙権が与えられて以来、70年ぶりの改革となる。来年に18、19歳となる中国地方5県の人口は、2010年の国勢調査を基に単純計算すると、広島5万4451人▽山口2万6499人▽岡山3万8175人▽島根1万3221人▽鳥取1万1205人―となる。

(2015年11月13日朝刊掲載)

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