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社説・コラム

社説 パリ同時テロ 市民巻き添え許せない

 世界中がおののき、胸のふさがる思いだろう。日本時間できのう未明、パリ中心部や郊外でテロが相次いだ。犠牲者は120人を超え、さらに増えそうだという。大惨事である。

 パリでは30日から、国連気候変動枠組み条約の第21回締約国会議(COP21)が始まるところだった。各国の首脳も集い、地球温暖化を防ぐ国際条約の締結を目指していた。

 世界の関心が吸い寄せられる舞台をわがものに転じ、残忍な「力」を誇示しようとしたのだろうか。とすれば、言語道断の身勝手な所業である。

 爆発や銃の乱射は、レストランや劇場、国立競技場などでほぼ同時に起きている。極めて用意周到だったといえよう。

 不特定多数が集まり、それぞれに楽しむ場所ばかりである。市民を無差別に巻き込む非道は、なおのこと許されない。

 襲われたパリ郊外の競技場では男子サッカーのドイツ代表との親善試合中で、驚いたことにオランド仏大統領や外相が観戦中だったという。

 元首のわが身が一番の標的だった恐れもあると踏んだのだろう。大統領は避難後、直ちに非常事態を宣言した。1月に風刺週刊紙本社への銃撃やパリ周辺の建物に立てこもるテロなどで、17人が犠牲となった事件も頭をよぎったに違いない。

 フランスでは6月にも、南東部リヨンの郊外で米企業のガス工場を襲うテロが起きている。その際、容疑者の男はアラビア語で「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んで、犯行に及んだとされる。

 今回、犯人と目される者の一部も同じ文句や「シリアのために」などと口走ったという証言も報じられている。

 オランド政権が9月から、シリアにある「イスラム国」の拠点への空爆に加わったことを指しているとも受け取れよう。それまでは「テロとの戦い」に一線を画していた。理由はどうあれ、許されぬ凶行ではあるものの、背景分析は欠かせまい。

 「イスラム国」は関与を認め、フランス政府もその犯行と断じたようだ。しかし事件の全容はまだ釈然としておらず、解明を急がねばなるまい。

 2005年、ロンドンの地下鉄などで50人以上の犠牲を出す同時テロが起きた直後、当時のブレア英首相が出した声明を思い起こしたい。「大多数のイスラム教徒は法を守り、テロを忌まわしいものと思っている」として、穏健なイスラム教徒とテロリストを混同しないように細心の注意を呼び掛けた。

 オランド大統領も当初、国民に対する声明で「私たちは連帯し、冷静にならなければならない」と注意を促した。そのことを忘れてほしくない。

 この大惨事でテロ対策は簡単でない―と、世界中が再確認したのは間違いない。COP21に向け、警戒レベルを引き上げているにもかかわらず、蛮行を許してしまったからだ。

 日本でも来年には、主要国首脳会議「伊勢志摩サミット」が控える。それに先立つ外相会合は広島市内で予定されている。

 卑劣極まりないテロの根絶に向け、国際社会が情報共有や法的対応で連帯し、実効性のある体制を構築できるかどうか。日本にとっても、決して「対岸の火事」ではない。

(2015年11月15日朝刊掲載)

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