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社説・コラム

天風録 「悲しみのパリ」

 クリスマスを控えたこの時期、パリの夜は輝きを増す。赤、青、白のイルミネーションがきらめき、街は着飾った人であふれる。数年前に訪れた際、その華やかさに心奪われた▲「花の都」は今、悲しみの色に染まっているだろう。レストランや劇場、国立競技場など数カ所で同時テロが起き、あまたの尊い命が奪われた。冬の華やぐムードは蹴散らされ、世界中に不安の色が濃くなりつつある▲オランド大統領は非常事態を宣言した。罪なき市民に銃口を向け、周囲を恐怖の底に陥れたテロ。いったい何のために―。いくらテロリストが言葉で正当化しようとも、断じて許されはしない▲競技場では爆発直後、避難する人たちで満員となった通路に、フランス国歌の歌声が響いたという。何のこれしき、パニックになるまい、へこたれるまい。そうした気持ちが人々を結び付けているのだとしたら救いだ▲1月に起きた風刺週刊紙の襲撃事件の記憶も新しい。今回もまたイスラム過激派の影が色濃いが、宗教間の対立をあおることは慎みたい。赤、青、白から成るフランス国旗は、自由と平等、友愛を意味する。仰ぎ見る3色を、べたつく憎悪で塗りつぶしてはならない。

(2015年11月15日朝刊掲載)

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