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岐路に立つ「原発のまち」 交付金・整備資金 国が見直しへ

松江と上関 賛否渦巻く

 国が、原発を抱える自治体に配ってきた交付金の見直しを進めている。ハコモノ整備の財源となり「原発城下町」の象徴でもあったが、福島第1原発事故を受け、防災・安全対策にシフトさせる方向で検討中だ。新規建設のための「貯金」も大幅減の可能性が高い。中国地方でも関係する松江市と山口県上関町では賛否が渦巻く。(荒木紀貴、川上裕、久保田剛)

 政府・行政刷新会議(議長・野田佳彦首相)の「提言型政策仕分け」。初日の20日、立地自治体への交付金が仕分けの対象となると、「根本的に見直さないと駄目」「安全対策に重点的に振り向ける必要がある」と厳しい声が相次いだ。

 背景にあるのは「安全神話」の崩壊。事故を機に、各地の原発周辺地域で津波対策や避難道、避難所整備など新たな防災・安全対策が必要となったが、国は財政難で苦しい。そんな中、財源として浮上したのが立地自治体への交付金だった。

 仕分け人の一部から「国が交付金の使い方をしばるのは傲慢(ごうまん)」と反論も出たが、最終的に「防災・安全対策を拡充する仕組みを検討するべきだ」との提言がまとまった。

ハコモノ批判

 「どこも手を挙げない国策に協力してきた。まったくもっておかしな話だ」。中国電力島根原発が立地する松江市の松浦正敬市長は25日の記者会見で不満をあらわにした。

 国からみると、安全・防災対策に回すべきだと映る交付金。松江市は1980~2010年度で計580億円を受け取ってきた。

 ことし3月には、増設中の3号機に伴う約39億円の交付金で建設を進めてきた「松江歴史館」が完成。松江城のほとりの新たな観光スポットとして「お城の見える博物館」と売り込む。ただ、25万人と見込んだ初年度の入館者は東日本大震災後の自粛ムードも影響し、開館8カ月で約9万人にとどまる。

 「古い街並みを壊してまで必要だったのか。維持管理にもお金がかかるのに…」と近くの三反田輝雄さん(85)。自宅は原発から9キロしか離れていない。「緊急時に避難できるように移動手段の確保にこそ力を入れてほしい」と打ち明けた。

 自治体もハコモノ一辺倒できたわけではない。最近は小中学校の職員給与や町内会の活動支援などのソフト事業にも充て、通常経費の財源と化している。

 市にとっては、防災・安全対策は「国の責任」との思いが強い。松浦市長は「交付金を安全対策に使うのは、国が交付金を召し上げ自分の事業として使うということ。とんでもない」と批判する。

取り崩し懸念

 中電が新たな原発建設を計画する上関町。1984年度から昨年度までに計約45億円の交付金を受け、集会所や歯科診療所、屋内プールなどの整備を進めてきただけに交付金の行方は気になる。

 交付金と並んで気がかりなのは国の周辺地域整備資金だ。資金は、上関原発を含む新規建設14基分の交付金の財源として国が積み立て、残高は747億円に上る。交付金同様、政策仕分けで取り上げられると、「取り崩し、縮減を検討すべきだ」との指摘を受けた。

 原発建設を推進する町商工事業協同組合の浅海努理事長(77)は「国のエネルギー政策の全体像が決まっていないので、一喜一憂しても仕方ない。好転を信じ耐えるしかない」と言葉を絞り出す。一方、上関原発を建てさせない祝島島民の会の山戸孝事務局次長(34)は「計画の中止も表明するべきだ」とする。

 枝野幸男経済産業相は25日、来年度予算案編成に向け、資金の取り崩しを検討する考えを表明した。「実際の予算案にどこまで反映されてくるのか」。町総合企画課の橋本政和課長は、国の動向に気をもむ日々が続く。

原発関連の交付金
 「電源3法」に基づき、国が原発が立地する自治体に配る。防災対策や立地対策などの名目ごとに分かれ、最大の「電源立地地域対策交付金」は2011年度予算の全国合計で約1188億円。1基受け入れると45年間で計1240億円が自治体に渡るとされる。

(2011年11月27日朝刊掲載)

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