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社説・コラム

社説 自民党60年 多様な声に耳を傾けよ

 自民党は「党の性格」なるものを明文化している。わが党は―で始まり、国民政党や平和主義政党、議会主義政党など六つを並べる。きのう結党60年を迎えた。これらの言葉の意味があらためて問われている。

 いまの自民党と安倍政権はどうか。国会の議席数では、かつてなく強固な足場を築いた。しかし違憲の指摘があり、世論の反発も根強い安全保障関連法を強引に押し通した。「国民政党」のあるべき姿だろうか。

 安倍晋三首相は憲法の自主的改正を目指している。1955年の結党時に定めた党の使命や政綱を金科玉条とするが、同時に位置付けられた党の性格を忘れてはいないか。

 党内の空気も変わったように感じる。環太平洋連携協定(TPP)や消費税増税は百家争鳴となりそうなものだが静まりかえる。官邸に対し、物言えぬようなら由々しきことだ。

 極め付きは9月の総裁選だろう。首相の政権運営に異を唱える野田聖子元総務会長が立候補を模索したが、推薦人集めで外堀を埋められた。多くの国民には奇異に映ったのではないか。

 自民党は60年前の結党を思い返してほしい。親米の自由党と、自主独立の日本民主党が手を組んだ。1カ月前に左右両派の社会党が統一したことへの危機感からだが、政治路線の違いを乗り越える力があった。

 その後の社会党との「自社55年体制」でも自民優位は揺るがなかった。2度の野党暮らしも合わせて4年ほどにすぎず、半世紀以上にわたって政権党の座にある。曲がりなりにも国民政党を目指したからであろう。

 かつては国民から幅広い支持を得られるよう政策を練った。野党の言い分にも耳を傾け、時には自家薬籠中とした。国対政治である。財界や利益団体との距離が近すぎると批判されても、党内論争で絶妙なバランスを保ったのである。

 利権争いや権力闘争を招いた派閥政治にも、極論を排し、穏健な政策に近づける役割はあった。政権が行き詰まると理念や政策が異なる総裁を選ぶ「疑似政権交代」も演じた。

 古くからの支持者や長老議員は「昔の自民党は懐が深かった」とこぼす。転機は非自民連立の細川政権時代の小選挙区制導入だった。候補者の公認や資金、ポスト配分の権限を党中枢が握り、重要案件に党議拘束をかけた。所属議員は異論を唱えにくくなったのも無理はないが、一人の政治家としての気概はどこにいったのだろう。

 「自民1強」に不満や不安を感じる国民は少なくない。しかし、受け皿となるべき野党のふがいなさも目立つ。

 特に民主党である。政策や野党共闘の方向性の違いから、年内の解党と野党再編の要求も飛び出した。これを受けて自民党の一部から「来年夏の参院選は衆参ダブル選に打って出てはどうか」との声が出るほどだ。

 むろん自民党も足元を見つめ直さねばならない。昨年末の衆院選の絶対得票率は小選挙区で24%、比例代表は17%にとどまった。これで多様化する国民のニーズをくみ取れるのか、はなはだ疑問である。

 さまざまな声に真摯(しんし)に耳を傾け、党内議論を呼び覚ます。「党の性格」を取り戻すには、ここから始めるべきだろう。

(2015年11月16日朝刊掲載)

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