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広がる視線 高い独創性 「俯瞰の世界図」展 広島市現代美術館 

 高所から対象を見渡す「俯瞰(ふかん)」の視点に着目し、写真家や建築家の表現も含む幅広い作品を集めた「俯瞰の世界図」展が、広島市南区の市現代美術館で開かれている。ヒロシマとの関わりも意識した、独創性の高い展覧会だ。(道面雅量)

 展示の冒頭を飾るのは、被爆から間もない広島の惨状を記録した林重男の写真群。東京から原爆災害調査団の一人として入り、広島商工会議所屋上の望楼から焼け野原の市街を撮った16カットが並ぶ。

 代表的な原爆写真の一つで、パノラマ状につないだものを目にすることが多い。あらためて1点ずつ見ると、原爆ドームが接続線に重ならないよう追加撮影するなど、細心の注意を払ったことが分かる。

 「こんなばかな」。たった1発の爆弾がもたらした被害の大きさに、林は思わずそうつぶやいたと手記で回想している。少しでも高い位置から全体像に迫り、伝えようとした思いが胸に迫る。

 一方で俯瞰は、まさに爆弾を投下する側の視点でもある。林の写真と同室に並ぶ米国の雑誌「ライフ」1945年8月20日号は、原爆投下前後の広島を撮った航空写真を並べて掲載。「ビフォー/アフター」という即物的な見出しに、俯瞰の視線がはらみ得る暴力性も浮かび上がる。

 イラク出身のジャナーン・アル・アーニの映像作品も、俯瞰と爆撃との関わりについて示唆的だ。中東ヨルダンの乾燥地帯を空撮した出展作は、91年の湾岸戦争時の爆撃を伝える映像から着想したという。

 茶色い地表をなめるような映像。わずかな凹凸として映る古代遺跡や戦争の塹壕(ざんごう)跡などが幾何学模様のように流れ、美しさの中に不吉さを宿す。

 ブラジル出身の大岩オスカールの絵も、俯瞰で描いた幻想的な都市像に戦争や爆撃のイメージが重なって見える。米ニューヨークを描いた「ガーデニング(マンハッタン)」、ヒロシマを扱った「フラワー・ガーデン」など、巧みさが際立つ。

 俯瞰の視点は、「洛中洛外図」など日本の伝統的な絵画にも取り入れられてきた。山口晃は、その伝統を遊び心を交えて現代に再構成する人気作家。「倉敷金比羅圖(ず)」は工業地帯も見える現代の瀬戸内の風景だが、目を凝らすと瀬戸大橋の橋脚が鳥居になっていたりとユーモラスだ。

 本展にはアジアからも気鋭の作家が出品し、厚みを加えている。台湾の林書楷(リンシュカイ)は、広島の平和記念公園周辺の建物などを参照し、小さな理想郷のような都市像を描いた。緻密さの中に原始的な味わいもある不思議な絵だ。

 タイ出身のニパン・オラニウェーは、ベビーパウダーを散らして白い地図を描くユニークな作家。複数の都市を組み合わせた架空の地図を描いてきたが、今回は、被爆前と現代の広島の地図を組み合わせたという。繊細極まる大作は、都市を地球のもろい表皮に例えるかのようだ。

 このほか、丹下健三による平和記念公園建設計画の模型や、現在の広島を真上から空撮した松江泰治の新作、実際の風景や人物がミニチュアのように見える本城直季の写真なども並ぶ。

 俯瞰とは、物事の全体像をつかみ、未来を構想する手掛かりにもなる視座だ。被爆70年にふさわしい展示の切り口を探求した熱意が伝わってくる。(敬称略)

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 「俯瞰の世界図」展は同館と中国新聞社の主催で12月6日まで。月曜休館(11月23日は開館し、翌日休み)。

(2015年11月17日朝刊掲載)

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