×

社説・コラム

社説 テロと国際社会 対立乗り越えて結束を パリ同時テロ

 トルコで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会合は対テロ対策を最優先課題として取り組む異例の声明を採択した。卑劣なパリ同時多発テロを目の当たりにし、国際平和を揺るがす、あらゆるテロと戦う連帯と決意を再確認する内容である。

 ウクライナ問題を契機に対立を深めてきた欧米とロシアも、テロ対策では一定に足並みをそろえたことになる。いつ、どの国で起きてもおかしくないとの危機感を共有したからだろう。封じ込めには国際社会の結束が欠かせない。この声明を単に掛け声に終わらせてはなるまい。

 パリのテロは過激派組織「イスラム国」が周到に計画し、実行を指揮したとの見方が強まりつつある。エジプトでのロシア機墜落などにも関与が疑われ、イラクやシリアの支配地域を越えて、テロを無差別に拡大させているようにも見える。

 G20声明ではテロ組織に流入する資金供給源の取り締まりを掲げ、処罰や金融制裁を強化するという。さらに外国人戦闘員の流入を防ぐ国境管理、インターネットでの過激思想の拡散を食い止める必要性も強調した。ただ先進国だけでなく新興国、そして中東諸国がそろって実践して初めて効果が期待できる。既に各国で協議してきた話を再確認したにすぎず、現実問題として限界もあろう。

 その状況の中で、被害国フランスがシリア国内のイスラム国の軍事拠点に報復の空爆を実施したのはどうなのか。テロが許されないのは当然だが、それを金科玉条に軍事力で壊滅を目指すだけなら事態はかえって悪化しないか。イラク戦争が結果としてイスラム国台頭の引き金となったように報復の連鎖が不毛であるのは歴史の教訓だろう。

 外交的解決ができる余地はある。とりわけ急ぐべきはテロや難民の拡大要因となっているシリア情勢の安定である。そもそも米ロが政治的な思惑の違いで長らく手をこまねいた揚げ句、泥沼化した経緯がある。

 シリアの反体制派を支援する米国もイスラム国拠点への空爆に加わるが、過度な軍事介入は避けたいのが本音だ。一方ロシアは現政権の存続を図って影響力を及ぼす狙いがあり、9月に始めた空爆にも、反体制派へ打撃を与えたい思惑も透ける。

 今回のテロを踏まえた多国間の協議では、現政権と反体制派の双方を招き、半年以内に政権移行を実現させる和平プロセスに合意した。しかし鍵を握るオバマ、プーチン両大統領はトルコで予定外の会談を持ったが、アサド大統領の処遇で双方譲らなかった。これでは停戦など程遠い。全力でシリア問題の解決を成し遂げてもらいたい。

 ただ、シリアを何とかするだけで中東が安定するわけでもない。イスラム国にしても、その背景には歴史的な宗派間の争いが見え隠れする。欧米とイスラム諸国の対立の根っこにあるパレスチナ問題も、むろん軽視できない。さらに石油資源などをめぐる利害が絡み合い、ひと筋縄ではいかない状況にある。

 イスラム国が戦闘員として多くの若者を引き入れるのは、民主化で置き去りにされた貧困や格差の問題が理由の一つである点を忘れてはならない。目先のテロ対策にとどまらず、こうした複雑な問題を長い目で一つ一つ解きほぐす視点も重要だ。

(2015年11月18日朝刊掲載)

年別アーカイブ