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社説・コラム

社説 APEC首脳会議 経済連携の議論不十分

 フィリピンで開かれていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)は首脳宣言を採択し、2日間の日程を終えた。パリの同時多発テロを踏まえ、急浮上したテロ対策が議題の中心となったのは当然といえば当然だ。

 首脳宣言でも「あらゆるテロ行為を強く非難する」としてテロ組織を封じるための資金洗浄防止や情報の共有を確認した。さらにテロ根絶のために貧困の撲滅に力を入れるとした点は、大いにうなずけよう。

 ただテロ対策の陰に隠れ、本質的な議題である経済分野では十分な成果があったと言い難いのは残念である。

 首脳宣言において「世界経済の成長は期待に届いていない」「先行きにはリスクや不透明感がある」と明記したように、中国など新興国の景気失速などを原因に、世界経済の行方はますます見通せなくなっている。

 主要20カ国・地域(G20)首脳会議に続き、成長の行き詰まりに対する手だてが打ち出せなかったことで、各国が共同歩調をとる難しさがさらに浮き彫りになったともいえよう。

 もとよりAPECの将来目標は自由貿易圏の構築である。その点でも議論は十分だったか。本来の旗印である参加21カ国・地域のアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を目指す雰囲気は後退した感がある。昨年の宣言では「可能な限りの早期の実現を目指す」としていたが、今回は「信念を再確認する」との表現にとどまったからだ。

 加盟国のうち12カ国が加わる環太平洋連携協定(TPP)が大筋合意され、そちらに目が注がれる。日米などはTPPを主軸に自由貿易の拡大を目指し、独自の経済圏構築をもくろむ中国をけん制すると同時に、中国市場をTPPの枠組みに引っ張り込むことも視野に入れる。首脳宣言でTPP大筋合意に「留意する」との文言が盛り込まれたことで流れがAPEC全体に波及するとの期待もあろう。

 しかしTPP交渉国にも協定批准の大きな壁がある。その中で中国やインドなどを巻き込むのは難しい。国内産業を保護するため、より関税撤廃率が低い貿易圏の設立を一方で目指しているからだ。こうした二つの流れの溝がさらに深まったとの見方もできる。むしろ政治体制や経済基盤に差があるアジアにおいては各国の自由度が高いFTAAPも重要な選択肢であるはずだ。こちらの議論も置き去りにしてはならない。

 もう一つ物足りないのが世界経済減速の要因とされる中国への言及があまりなかったことである。中国からすれば南沙諸島の問題と同様、議論を回避するよう望んだ節もあるが、APECとして早期の構造改革を求めたかったところだ。しかし経済協力で中国に借りがあるため強い姿勢を取れずじまいだった国々もあるとみられる。

 目の前の課題に触れず、集まっただけで「成功」とうたうようでは危機感の共有に程遠い。新興国などに影響が波及するのを承知の上で、専ら自国の思惑で利上げタイミングを考える米国についても同じことだ。

 一国の都合ではなく、いかに結束できるか。経済失速に先手を打つためのリーマン・ショックの教訓である。リスクの芽に正面から向き合わないなら国際会議の存在意義が問われる。

(2015年11月20日朝刊掲載)

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