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社説・コラム

『記者縦横』 対テロ 被爆地の役割は

■報道部・水川恭輔

 「殺人はコーランに反する。イスラム教への誤解を招く『イスラム国』と呼ぶのはやめてほしい」。パリ同時多発テロで、イラクのファトラウィ文化長官の訴えを思い起こした。長崎市内で1~5日にあった「パグウォッシュ会議」で、テロをめぐる報告も取材した。

 長官は、この過激派組織を「ダーイシュ」とアラビア語の略語で表現した。「踏みにじる」に響きが通じるらしい。「宗教心ではなく、貧困や差別への不満をあおって戦闘員を集めている」。欧米やアジアからの参加の実態を説明し、国際的な対応を求めた。

 その1週間余り後のテロ。実行犯はフランス人の若者らとされる。米国やフランスは組織の実効支配地域への空爆強化に動くが、長官は会議で「各国は、組織参加の芽となる若者の疎外感を減らす社会・教育的な対策も不可欠」と指摘した。イスラム教徒への偏見や排除は、もってのほかだ。

 会議では、内戦が続くシリアの政治学者エリアス・サモさん(70)から平和的な解決に向けた国際世論の喚起を日本に期待するとも聞いた。「爆撃で街が破壊され、罪のない市民が犠牲になっている。広島、長崎の悲劇を思い出してほしい」

 もし過激派組織が核物質、核兵器を手に入れたら‥。テロを受け、そんな想像に恐怖を抱いた市民も少なくないだろう。ヒロシマは戦争、核兵器はあってはならないと「8月6日」の記憶を継承してきた。今、求められている役割は何か。混乱が続く中東の2人の言葉をかみしめている。

(2015年11月20日朝刊掲載)

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